第一話 兄と妹

 荒野を二体のACが走っている。
後方のACは重量二脚タイプで、前方のACは中量二脚タイプである。
  中量二脚タイプのACは、マシンガンとブレードのみを装備している。 マシンガンは、五百発の弾を持つものである。 そして、ブレードはMLB―HALBERDと言われるものであった。
  重量二脚タイプのACの方は、中量タイプのACと対照的に、かなりの装備であった。 肩には、両肩デュアルミサイルを装備しており―― 腕には、左右ともに、バズーカを装備していた。 さらに……エクステンションには、連動ミサイルを装備していた。 色は、中量二脚タイプが赤、重量二脚タイプが白である。
  中量二脚タイプのACに通信が入った。 どうやら、重量二脚タイプのACに乗る者からの通信であるらしい。

「おにいちゃーん……待ってよおー!」

  いきなり、コクピット内に、女性特有の高い声が響きわたった。 重量二脚タイプのACと中量二脚タイプのACの間には、けっこうな距離ができていた。

「まったく……お前は、武器を載せすぎなんだよ」

  男の声が、重量二脚タイプのACのコクピットに返ってきた。
  男の名は、キール・クラフトといった。 歳は、二十歳前後であり、目、髪ともに黒かった。髪は、短めである。 背は高めで、スマートな体格。また……顔は、なかなかの美形だった。 アリーナでは、Bランクの一位であり、なかなかの実力者だった。 『赤い閃光』という異名がつくほどである。
  そして、重量二脚タイプのACに乗る女性は、キールの妹だった。 名前は、リーア・クラフト――十五歳くらいの、とても若いレイヴンである。 背は低めであり、兄と同じく、スマートな体格だ。髪は金髪で、なかなか長い。 顔はというと、とてもかわいらしく、青い目を持っていた。 アリーナでは、Dランクの三位――兄と比べて、実力は低かった。 そんな彼らが、今やっていること――それは、実戦のシュミレーションだった。 ミッションでの連携などを練習するため、 シュミレーションマシン『EXAM』でシュミレーションをしていたのだ。 『EXAM』は、入力した機体のデータを正確に読み取り、仮想空間で実体化させるというものである。 高額なマシンなので、持っているレイヴンは限られていた。 彼ら二人も、つい先日に手に入れたばかりである。

「弾切れが怖いんだから、仕方ないでしょ!」

  リーアが反論した。 リーアが乗るACは、『スウィートエンジェル』という名前だった。 彼女は実力の低さゆえに、弾を使いすぎることが多かった。 だから、ここぞとばかりに武器を搭載してあった。

「強いレイヴンは、少数の弾でも戦えるぞ?」

  キールが返した言葉は、事実に違いなかった。 トップクラスのレイヴンは、一発一発の弾を正確に放つ。 だから、少数の弾で十分であった。 多くの弾を使うレイヴンもいるが、大量の敵を殲滅する場合―― または、アリーナのトップクラスランカーを相手にする場合だけのことだ。
  今、シュミレーションで相手にしているものは……そういったものではなかった。 十機の逆間接型MT――それこそが今、相手にしているものだった。 既に七機を撃破し、後は三機となっていた。

「どうせ私は弱小レイヴンですよーだ!」

  リーアが、べーっと舌を出しながら言った。 キールのACの名は、『ブラッディエビル』といった。 ブラッディエビルの移動速度が、少し遅くなった。 そして、リーアのACであるスウィートエンジェルと肩を並べる。

「仕方ないな……速度を合わせてやるよ」

  キールは、優しげな口調でそう言った。 その言葉の示すとおり、ブラッディエビルとスウィートエンジェルは、同じ速度で移動していた。

「やっぱり、お兄ちゃんは優しいね……」

  リーアが、嬉しそうに言った。キールは、恥ずかしそうな顔をして返事をする。

「な、なに言ってんだよ……照れるだろ!そんなこと言ってないで、操縦に集中しろって」

  リーアの顔は、とても嬉しそうだった……とても幸せそうだった。 しかし、嬉しさに浸っている時間は短かった。 しばらく時間が経った後、レーダーに敵影が映ったのだ。 場の空気は、一気に変わった――戦闘開始の雰囲気になったのである。

「敵が近い……行くぞ、リーア!」

  キールの掛け声とともに、戦闘が始まった。 ブラッディエビルは、OBを起動する。 OBとはもちろん、オーバードブースターの略であり……一時的に高速度が出せるというものだ。
  コア後方から、光が溢れ出る。それとともにブラッディエビルが、高速で移動を始めた。 スウィートエンジェルは、ついていけなかった。 理由は、コアに内蔵されているものがEOであったためである。 EOとはもちろん、イクシードオービットのことだ。 イクシードオービットは、実弾かエネルギーの弾を発射する武器である。 EOは補助兵装として……弾切れに対処するのが、主な役目だった。 コアには、EOかOB――どちらかしか内蔵できない。 ここでも……武器を多く搭載しようという、リーアの考えが裏目に出ていた。

「ああっ!ひどいよ、お兄ちゃん……待ってよー」

  リーアの叫びも虚しく、キールは先に行ってしまった。 遠くではもう、キールが戦闘に入っている。 ブラッディエビルは、蹴ったり殴ったりでMTの姿勢を崩し…… ブレードで斬りつけたり、マシンガンを撃ったりしている。 もうしばらくすれば追いつけるだろうが、そのころには 戦闘終了となっているだろう。リーアが戦闘現場につくなり、キールが言う。

「ん?遅かったな、リーア……もう、全部片付いちゃったぞ。」

  そこらじゅうに散らばるMTの残骸……案の定、全て終わってしまっていた。 リーアは、がっくりと肩を下ろした。とても残念だが、いつものことだ。 前回も、キールがターゲットを破壊しまくっていた。 そして、今回においてもリーアの出番などなかったのである。

「私、才能ないのかなぁ……」

  リーアが、ため息まじりにつぶやいた。 キールとの大きな差に、リーアはコンプレックスを感じていたのである。 レイヴンとしての戦績は明らかに、キールの方が上だ。 それに比べ、リーアはレイヴンになったばかりであった。 リーアが、キールに勝てないのは当然のことだったのだ。 これでリーアがキールに勝ててしまうというのなら、リーアは天才だとしか言えないだろう。 だが、兄に追いつきたいという気持ちが先走り、なかなか実力が上がらないことへの不安となっていた。 もちろん、このシュミレーションの戦闘は、機体構成によるものもあったのだろう。 それでもやはり、リーアとしては納得がいっていないようであった。

「ターゲットの全撃破を確認……シュミレーションを終了します。」

  抑揚もない、機械的な音声が二体のACのコクピットに響く。 一瞬、意識が失われるような感覚を感じる。 その感覚が終わると、シュミレーションから戻ってきていた。 二人は、シュミレーションをするために使うアイゴーグルをはずした。 そして、キールは、ゆっくりと椅子から立ち上がった。 リーアは、椅子から立ち上がろうとせず、何かを考えているようだ。

「気にするなよ……お前は、レイヴンになったばかりなんだから」

  キールは、リーアの心を見透かすように言った。 その言葉に対して、リーアはうつむきながらつぶやいた。

「けど……私は、おにいちゃんの力になれない。だから、私は……」

  リーアが何かを言いかける。 その言葉を邪魔するように、キールの額がリーアの額に当てられた。

「俺は、気にしてない……お前に足らないところは、俺が補ってやる」

  そう言うなり、キールはリーアを抱え上げた。そして、肩に乗せてしまった。

「ちょ、ちょっと……何するのよ、おにいちゃん!」

  キールはリーアを肩に乗せたまま、部屋の入り口に向かって歩き始める。 そうしながら、キールは口を開いた。

「どうせこの後、一人で練習しようとか考えてたんだろ?子供は、もう寝ろ……」

  図星をつかれ、リーアはぎくりとした。 リーアは兄がいなくなった後で、シュミレーションをもう一度しようと考えていたのだ。 しかし、最後に要らないことを付け加えている。 そのせいでリーアは、兄が優しいだけの男でないことを思い出してしまった。 どこか、いじわるなところがあることを――。

「私は子供じゃないってば!ここから下ろしてよ、おにいちゃん」

  リーアは子供扱いされたことに反論しながら、下ろしてくれと必死に訴えている。 しかし、キールはリーアを下ろすどころか……そのまま部屋を出て、廊下を歩き始めた。

「下ろしてよぅ……下ろしてってばぁ!」

無言で歩き続けるキールに、リーアはなんども訴えていた。


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