第二話 ミッション

リーアがACのコクピットでつぶやいていた。

「おにいちゃんとミッション……今日こそは、おにいちゃんの力になる!」

リーアはレイヴンになってからずっと、兄のキールと一緒にミッションをこなしている。理由は、二人のほうが安全だからというものだった。それゆえに、リーアは僚機を伴うようなミッションしかしたことがなかった。 今回も当たり前のごとく、キールとともにミッションをこなすことになっている。リーアはシュミレーションでさえも兄の足をひきずるわけなので、ミッションなどでも同じように役に立たなかった。

「システムに、異常はないようだな……」

キールが、機体のシステムをチェックしながら言った。

「リーア、準備はいいか?そろそろ行くぞ」

キールが、機体のメインシステムを起動させながら言った。リーアは慌てて、機体のメインシステムを起動して返事をする。

「ちょ、ちょっと待って……今、動けるようにするから」

「ったく……またか。ぼーっとしてんなよ……シュミレーションと違って、死ぬこともありえるんだからな。」

キールはうんざりした顔で言った。リーアがぼーっとしていることはよくあることであった。ただ、戦闘中にはそんなことがなかった。だから生死に関わるほどの問題ではなかった。だが、やはり――出撃時にぼーっとしているのを見るとどうしても、心配せざるをえなかった。死ぬかもしれない――リーアは何度も兄と一緒にミッションをしてきたが、そう言われたのは初めてだった。心に、言葉がぐさりと突き刺さる。そして、リーアはしばらく沈黙してしまった。

「すまん……言い過ぎたか?」

キールが、心配して言った。

「そんなことない……私のことを思って、言ってくれたんでしょ?」

リーアが、返事をした。顔には、感謝の気持ちが滲みでていた。

「ああ……」

キールは短くそう答えた。二人は、無言のまま出撃した。
目的地へ向かい、二体のACが移動していた。リーアのACである『スウィートエンジェル』が、キールのAC『ブラッディエビル』の後を追いかける形でだ。
目的地が近づいてきた頃に、キールがうっすらと唇を開いた。

「もう少しだ……」

「そうだね……」

リーアが応答して言った。
目的地に到着し、二人は策敵をはじめた。レーダーには何も映っていない。

「おかしいな……敵がいないなんて」

キールが、不思議そうな顔をして言った。リーアの方も不思議そうな顔をしている。
唐突に、オペレーターから通信が入ってきた。

「レーダーに機影……ACです!」

オペレーターからACの接近を聞き、キールの脳裏にある可能性が浮かんだ。

「まさか……これは偽の依頼か!」

企業の専属レイヴンでないレイヴンが力をつけると、企業に目をつけられる。企業が危険だと判断した場合――偽の依頼でおびき出して、企業の専属レイヴンによって消させるのだ。偽の依頼でおびき出され、消されたレイヴンは少なくなかった。
このようなことは今までになかったが――キールは、そのようなことがあることを先輩レイヴンから聞いたことがあった。おそらくは、キールの方を狙ってのことだろう……リーアは、危険視されるほどの実力を持っているわけではないのだから。
オペレーターから、再び通信が入る。

「識別信号照会……ランカーAC『ロストハート』です」

キールは、接近するACの名前を知って驚く。ロストハートというACに乗っている者は――アリーナで、Aランクの三位という実力者だったからだ。
その人物の名は、ノヴァといった。ノヴァは、黒髪を持ち、目は赤い。さらに、黒い髪は、肩まで伸びていた。また、絶世の美男子とも言えるほど……顔や体格は、美しいものである。B−1の上は、A―3……一つ上とはいえ、Aランクだ。Aランクとなると、油断できない。Bランクのトップといえどだ。
彼のACは、軽量二脚で、機動力を重視していた。武器は、右腕に実弾ライフル、左腕にブレードだ。左肩には、小型ミサイルを装備――右肩には、レーダーを装備していた。

「まんまとひっかかってくれましたね。企業からの依頼です……恨みはありませんが、死んでもらいますよ」

接近してきたACから、通信が入った。その言葉を聞き、「やはりな」とキールは思った。

「リーア、援護しろ!」

キールはそう叫んで、敵AC『ロストハート』に突っ込んでいく。キールのAC『ブラッディエビル』はマシンガンで攻撃しながら、ロストハートに近づく。

「援護、いきます!」

リーアが、叫ぶ。その次の瞬間、リーアのAC『スウィートエンジェル』がデュアルミサイルを発射した。 連動ミサイルを含め、六発のミサイルがロストハートに向かって飛んでいく。
それに対して、ロストハートはデコイを射出する。デコイによってミサイルの軌道が反れてしまい、ミサイルは当たらなかった。

「そんな……せっかくの援護が――」

リーアは、ミサイルが当たらなかったことにショックを受けていた。
ブラッディエビルの撃ったマシンガンが、ロストハートに命中する。しかしロストハートはOBを起動して、それを回避した。

「悪いですが……これで終わりにしましょう」

そう言ったのは、ロストハートのパイロット――つまり、ノヴァであった。ロストハートはOBの機動力であっという間に、ブラッディエビルとの距離を詰めていた。
ロストハートの実弾ライフルが、ブラッディエビルに向けられる。ロストハートのロックオンサイトはブラッディエビルのコクピットを中央に捉えている。キールはもはや、絶対絶命であった。

「だめー!」

リーアはそう叫ぶなり、コクピットから出てきた。ロストハートの頭部が、リーアの方を向く。ロストハートは急に動かなくなった。

「か、かわいい……一目惚れだ」

ノヴァはリーアに見とれてしまっている。そして、ノヴァのAC『ロストハート』の頭部はリーアの方を向いたままであった。
リーアが、このような事態になることを予測していたとはとても思えなかった。というより、敵前でコクピットから出るという行為自体がおかしなことだった。下手をすれば、これ幸いとばかりに射殺されてしまっただろう。なぜリーアがこんな行動をとったのかは分からない――だが、相手は隙だらけになった。幸運だとしか言いようがない。キールはこのチャンスを逃さなかった。

「どうやら、終わりなのはお前だな」

キールがそう言った瞬間、キールのAC『ブラッディエビル』がブレードを振った。ブレードは、ロストハートの腕をきれいに切り裂いていた。
ノヴァは、慌てて機体を動かす。ブラッディエビルから、ロストハートは離れた。次の瞬間……ノヴァは、信じられないことを言い出した。

「やめます……そちらの女性に惚れました。企業の依頼なんてどうでもいいです……その女性の名前を教えてください」

相当な惚れ込みようである。こんな事態になるなんて、ノヴァ自身も思っていなかっただろう。キールは、返事をする。

「名前はリーアだ。だが……妹に手を出すなんて、許さんぞ?」

「おや……あなたは、あの女性のお兄様でありましたか。ならば、あなたも殺すわけにはいきませんね」

ノヴァが、またも信じられないことを言った。
レイヴンなら、依頼を優先するはずだ。ましてや、Aランクのレイヴンだ……依頼を放棄するなんて、妙な話としか言いようがない。

「それじゃあ、私はひとまず帰ります。また会いましょうね、リーアさん」

ノヴァはそう言って、帰っていった。ノヴァのAC『ロストハート』が、どんどん遠ざかっていく。後には、二体のACがとり残されていた。

「えっと……」

オペレーターは、そんなことだけ言っている。とてつもなく不思議な事態に、言うべきことを忘れてしまっているようだ。しかし……すぐにその、言うべきことを思い出す。

「ミッション終了です……おつかれさまでした」

しばらくの沈黙の後、キールが口を開いた。

「帰るか……」

「うん……帰ろう」

コクピットに戻って、リーアはそう返事をした。その後、二体のACは仲良く帰っていった。


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