第一話 メビウスリングという男

  小高い丘の上にある建造物のある一室――そこで一人のレイヴンが椅子に座り、
ついさっき来たばかりの依頼を見ていた。

依頼者――AI研究所

報酬――100000c

依頼内容――レイヴン、我々が開発したAI機体のテストに協力してほしい。 一定時間内、戦闘を続けてくれればいい。
なお、データが欲しいだけなので、AI機体の損傷を気にする必要はなく、 破壊してもらってもかまわん。では、よろしく頼む。

「AI機体か……。俺を楽しませてくれるといいんだがな……」

独り言を漏らしているこの男は、名をメビウスリングといった。
メビウスリングはレイヴンであり、「ムゲン」というACを相棒にしていた。
なんと言っても、アリーナでの活躍が素晴らしい。 彼は今もなお、アリーナのトップの座に君臨している王者なのだ。

「オペレーター、この依頼を請けるぞ。依頼者に伝えてくれ!」

メビウスリングが、通信につないで言っていた。オペレーターは、冷静に返事をする。

「分かりました。連絡をとるので、しばらく待っていてください」

「ああ、よろしく頼む」

そう言いつつ、メビウスリングは椅子に座った状態で、思索にふけっていた。
アリーナで、自分のすぐ下にまで勝ち上がってきている新人レイヴンがいること…… また、ミッションで死んだレイヴンの代わりに ランカーになった者(俗に補充ランカーと呼ばれる)の中に、 実力不明の謎のレイヴンがいることなどについてである。
メビウスリングは、己を超えるであろう強き者を望んでいた。 それゆえに、この手の話はうれしく、ついつい期待してしまう。
彼はアリーナでさまざまなレイヴンと戦っているが、依頼はあまり請けない。 しかし、そんな彼が、今回は珍しく依頼を引き受けた。 それは、報酬の高額さからAI機体の強さがかなりのものであると感じさせるからであり、 企業間の勢力争いとは関係がないであろうからに違いなかった。
企業間の勢力争い――それは、企業側の勝手な都合でしかない。 企業が勢力を伸ばそうとするような依頼は、金目当てでミッションを受けているわけではない メビウスリングにとって、もっとも嫌なものとなっていた。
いろいろと考えているうちに、オペレーターから通信が入ってきた。

「レイヴン、5時間後に研究開発区のEー13エリアに来てほしいとのことです!
輸送機の手配ができています。場所が遠いので、直ちに準備を開始してください」

「了解した」

メビウスリングはきっぱりとした口調で返事を返し、椅子から立ち上がる。
そして、ガレージへ向かっていった。ガレージに着き…… メビウスリングは、相棒であるAC、「ムゲン」に乗り込む。 そして、そのまま、ムゲンを輸送機の所まで移動させる。 輸送機に乗り込むと、エンジンが唸る音とともに輸送機が発進した。 地上が少しづつ遠ざかっていき、自分がいたガレージ……そして、都市が流れていく――。
 輸送機がフライトを始めてから、どのくらい経っただろうか…… 研究所がもう見えてきている。
そろそろ出撃することになるのだろう――そう、メビウスリングは思った。 メビウスリングが、椅子から腰を上げたとき、オペレーターから通信が入ってきた。 それはもちろん、出撃の連絡だった。

「レイヴン、現地に到着しました……これより、機体を投下します」

「了解」

メビウスリングは短く、そう返答して機体を起動させた。
輸送機から降下する「ムゲン」―― その機体は、右腕にレーザーライフル、左腕にブレード―― 肩には、大型グレネードとミサイルを装備していた。 また、エクステンションには連動ミサイルを装備している。
研究所に向かって、ムゲンはブースターをふかした。
研究所の前につくと、ムゲンはロックをはずし、研究所の扉を開けた。
 研究所に入ると、依頼者らしき人から通信が入ってきた。

「どうやら来てくれたようだな……。 レイヴン、早速だが……施設西側にあるテストルームに来てくれ」

メビウスリングは、無言で機体を再び動かす。ムゲンは、テストルームへ向かって行った。
テストルームは大きなドーム状の部屋で、アリーナによく似ていた。 そして、その中央には一体のAI機体がたたずんでいる。 部屋に入ってすぐに、依頼者らしき者の声が部屋中に響いた。

「依頼内容の再確認をする……我々の合図があるか、 またはAI機体を破壊するまで戦ってくれ。 なお、そのAI機体の名称は『IBIS』といい、AIの歴史を打ち破る可能性を秘めている。 我々にとって、このテストはとても重要なものだ。 持てる力を尽くして戦ってほしい……では、開始する」

メビウスリングは、「もちろん、そのつもりだ」と 内心で思いつつ――機体のモードを、通常モードから戦闘モードに変更する。 通信が終わるとともに戦闘は始まった。
メビウスリングのAC「ムゲン」は、右腕に持っているレーザーライフルを構え、 IBISを捕捉した。しかし、次の瞬間―― 捕捉したはずのIBISは視界外に消えていた。空中に飛んだのだ。
その直後、IBISは空中からレーザーらしきものを撃ってきた。 メビウスリングのAC「ムゲン」は、それをかわしきれなかった。 肩装備のミサイルに命中してしまい――もはや、ミサイルは使いものにならない。

「ミサイルが使えないなら、これもいらないな……」

そうつぶやいて、連動ミサイルを武装解除する。 IBISのレーザー弾をかわしつつ、レーザーライフルで反撃する。 その攻撃が命中する――が、装甲を削っただけで、IBISの動きは止まらない。
メビウスリングは、より決定的なダメージを与えるためにブレードで斬りつけようとする。
メビウスリングは、まっすぐにIBISへ突っ込んでいく…… それに対し、IBISは徐々に高度を下げ、着地する。
IBISがなぜ、わざわざ着地したのか?それを知るのに、それほど時間はかからなかった。 IBISは、着地した直後に、翼からビームの束を発射してきた。
それはメビウスリングのAC「ムゲン」を襲い、その装甲を溶かし、削っていく。 使用に大量のエネルギーを必要とするらしく――IBISは、ビームの束を発射したまま止まっている。 メビウスリングはそのことに気付き、ビームの束から逃れる。 そして、予備動作なしでグレネードを発射し、反撃した。
普通は、キャノン系武器を発射するのに予備動作が必要となるのだが―― メビウスリングは強化人間であるために、予備動作がいらないのである。
しかし、グレネードは当たらない。IBISが、再び空中に戻ったからだ。 IBISは空中を飛びながら、EOらしきものを発動する。 EOらしきものから光の弾が発射され、飛んでくるが―― メビウスリングのAC「ムゲン」は余裕でかわしていた。 その回避力は、メビウスリングの強さの証明と言えるだろう。
何発かグレネードを撃ち、そのうち一発がIBISに命中する。 すると、IBISの翼が壊れた。翼を失ったIBISは、地上をホバー走行するようになる。 翼が壊れても戦闘能力に問題はないらしく――IBISは、とてつもない速度で突っ込んでくる。
左腕に装備しているものを見れば、何をするつもりであるかはすぐ分かった。

「ブレードで斬りつけるつもりか!」

そう感じたメビウスリングは、何かのスイッチを押す。
カチッという音とともに、コア後方で光が集まり、膨張する――OBだ。
「ムゲン」は、IBISを超える速度で、ぐんぐん距離を離していく。 IBISはあきらめずに、再び突っ込んでくる。

「悪いが、これで終わりだ」

メビウスリングはそう言いながら、グレネードのねらいを定める。
次の瞬間、大きな音とともに、IBISの脚は破壊されていた。 IBISは、体全体から火花が散らしている。行動停止まであと少しといった具合だ。 グレネードの影響は、かなり大きかったようである。
IBISは 脚もなくなったボロボロの状態で、レーザーライフルのねらいを定めようとしている。

「とどめだ!」

メビウスリングはそう言って――動けないIBISに再び、グレネードのねらいを定める。 次の瞬間、大きな破壊音が響いていた。
しかし、それはグレネードによるものではなく……破壊されたのも、IBISではなかった。 ドーム状の部屋の天井が破壊され、ACが降下してくる……。


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