第二話 ハンティングドッグ



 隠れアジトのリニューアルを喜ばぬ者たちがいた。 それは、兼ねてから隠れアジトを襲おうと考えていた者たちであった。 隠れアジトがリニューアルされるという情報は、広く知られすぎており……彼らは、それに伴う隠れアジトの強大化を恐れていた。
金属製で正方形の形をした建造物に、半円筒の倉庫がついている感じの建物が、彼らの住処であった。その住処の奥から声が聞こえる。

「隠れアジトのリニューアルなど……そんなことをさせるわけにはいかぬ。皆、分かっているだろう?」

ごつい顔を持ち、顎の割れた大柄な男が言った。 その男の目の色は黒……髪はこけが生えたような感じであり、緑色をしていた。
とても貫禄があるらしく、周りの者たちは……静かに、その男の話を聞いていた。

「リニューアル後の隠れアジトが、核エネルギーを使うというのは……先ほどの、『隠れアジト行きの補給物資の中に、五十個もの核の反応があった』という情報で分かっている。我々、『ハンティングドッグ』が生き残るには、隠れアジトのリニューアルを阻止する必要がある。核の力を使えば、隠れアジトの強大化は確実なものとなる。我々の活動がさらにやりにくくなる前に、我々でそれを奪うのだ。我々には、他の道など用意されてはいないのだ」

ハンティングドッグ……レイヴンを襲い、レイヴンの乗るACを奪うことを生業としている集団である。 彼らは、奪ったACで新たなACを奪ったり……また、奪ったACのパーツを売ることで生活をしている。
そんな彼らにとって、隠れアジトは邪魔な存在だった。 レイヴン同士で情報交換、時には協力さえもする……そんな隠れアジトは、彼らにとって最も襲いづらい場所であった。 このまま、隠れアジトのリニューアルを許せば、ハンティングドッグの活動がさらに制限されることになる。 隠れアジトがリニューアルされれることは、レイヴン達のネットワークがさらに広がるという可能性を秘めている。 加えて、核ほどのエネルギーを多数、使用するのだから……危険極まりない。
先ほどから話を続けている男は、ハンティングドッグのリーダーであった。 名前はアダム……元レイヴンであった彼は、グループを支えるほどの戦闘力を持っていた。 レイヴンでなくなったのは、年で引退したからではなかった。 年がそこそこであるのは確かだった……彼は、四十を越えているであろうことを感じさせる程に、老けていた。 それでも、年で引退したからではなかった。 企業を乗っ取ろうとしたことがあり……その企業、並びにその行為を見た他の企業が、彼に依頼をよこさなくなったからである。 危険人物と見なされ、依頼を請けることができなくなった彼は……ハンティングドッグを作り上げ、強奪を続けるようになった。 そして、今……その強奪行為が妨げられようとしている。 もちろん、隠れアジトのリニューアルによってだ。 彼らには、選択の余地などなかったのだ。

「しかし、リーダー……我々の戦力で、隠れアジトのレイヴンたちを倒すことができるでしょうか?」

アダムの近くにいた男が、心配そうに……リーダーであるアダムに聞いた。 彼らが自分たち用に持っているACは、たったの三体。 それが、勝利への不安となっていた。 普通の相手なら問題ないが……今回の相手は、多くのレイヴンを抱える隠れアジトだ。 彼らの持つ、三体のACをはるかに上回る数のACを……相手にする可能性は、とても高い。 男が聞いたことは、それを意味していた。
男の名は、アルチェット……20歳代のレイヴンで、赤い目が印象的だ。 短くも長くもない、黄色い髪……生気あふれる、すらりとした顔を持っている。 体はコートに身を包まれているので、よくは分からないが……おそらく、ほっそりとした体に違いない。

「心配は要らん……我ら、『三犬』のAC以外にも、ちゃんとACがある」

アダムが、微笑を浮かべて言った。三犬とは、ハンティングドッグが所持する三体のACのパイロットのことである。アダム、アルチェット、シルバの三人が、三犬と呼ばれる者達であり……ハンティングドッグでは、彼らのみがACに乗っていた。また……三犬は、幹部二人とリーダーで構成されていた。

「我ら、『三犬』以外のAC?」

アルチェットが、どういうことだとばかりに聞いた。アダムは、にやりと笑って答える。

「性能は普通のACより劣るが……量産型ACが約30機、あるのだよ。乗るパイロットもすでに決まっている」

「そんなものを、今まで……同じ三犬のメンバーである、私やシルバに黙っていたというのですか!」

アルチェットは、怒り気味に言った。 同士を……しかも、ほぼ同じ階級にある者を今まで騙していたのだから、当然のことだった。
量産型ACというのは、MTを元にして作られたACもどきである。パーツ交換は武装のみであり、頭部や脚部など、体を構成する部位は交換できない。 また……ブースター出力や装甲などは本物のACほどではなく、性能がやや低い。
ハンティングドッグは……企業が研究していた、素体の状態の量産型ACを奪い、量産型ACのデータをコピーして奪った。 コピーで済ませ、データを企業側に残した理由はよく分かっていない。 完全に奪い去ることが不可能だったのか……それとも、別の意図があったのか……謎のままである。 本物のACを生産することも可能であった。 だが、本物のACは短時間で量産できないため、量産型ACを先に生産する……そういう計画だった。 間が悪く、隠れアジトのリニューアルが始まり、本物のACを生産するには至らなかった。そして……その量産計画は、ほとんどの者に知らせぬまま、進んでいた。

「敵を騙すには、まず味方から……というだろう?それに、シルバはこのことを知っている。『三犬』のメンバーで知らない者は、お前だけだよ」

アダムが、不敵な笑いを浮かべてそう話した。 アルチェットはむっつりとした顔で、納得いかないといった感じだ。 だが……とりあえず、怒りは収まったようだ。そしてすぐに、アルチェットが、不思議そうな顔をして聞く。

「で……シルバがこのことを知っているというのは、なぜです?」

「ああ、当然だ……シルバに、量産型ACの開発を手伝ってもらっていたのだからな。三犬にだけは教えておくつもりだったが……お前は出撃が多く、連絡することできなかった。三犬以外に教えなかったのは、スパイがいるかもしれんからだ……まさかとは思うがな。スパイがいたとしても、作戦開始間際ではどうしようもあるまい」

アダムは、話し終わると同時に……ハンティングドッグの組員達に向かって、目を光らせた。そうした後……アダムが、続けて言う。

「それに、超強化人間であるシルバがいる……やつと量産型AC達がいれば、失敗はあり得ない」

「シルバの強さは、私も認めます……通常の強化人間と違い、あいつは知能まで高い。知能が高いゆえに、言語機能で欠けている部分も存在しない……究極のパイロットと言えますね」

アルチェットが、こくりとうなずきつつ……言った。
超強化人間とは……企業が開発していた、強化人間の進化系である。 強化人間が持つパイロットセンスに加え、知能まで高い。 知能が高いゆえに……強化人間である以上は確実に存在する、言語機能の異常も見られない。 まさに、最強というにふさわしかった。 企業は、多くの時間と犠牲によって……超強化人間になれる薬品を開発した。
究極の力を得ることが出来るその薬品にも、欠点があった。 特定の遺伝子を持つ者でなければ、副作用で死んでしまうという欠点だ。 その副作用があったために、一度しか使用されず……企業は、その薬をとある場所に封印し、二度と使わなかった。
今、企業は、副作用のないものを作ろうとしているが……一向に完成しそうにもなかった。 ハンティングドッグは、封印されていたその薬品を盗み出した……そして、組織内の者に飲ませた。副作用で死ぬかもしれないことは、アダムとアルチェットのみが知っていた。 これを飲めば強くなり、高い階級につける……そう言って二人は、組織内の者達に飲ませていったのだ。一人ずつ、内密に飲ませていたために……なぜ死んだのかは、二人を除いて誰も知らなかった。多くの者が死んだ……そんな中、超強化人間になったものがたった一人だけいた。それが、シルバである。いつもフードをかぶり、顔は明らかではない。ただ、フードからはみ出た赤い髪と……屈強そうでありつつも細い体が、確認できた。顔が見えないため、確かなことは分からないが……20歳ぐらいの若々しい顔つきであるらしい。

「量産型AC達はすでに用意ができているし、シルバもすでに出撃している。全員、戦闘準備をして外に出ろ!」

アダムが、声を張り上げて言った。それに従い、組員達は部屋の入り口に向かう。 金属製の扉が音を立てて開かれる。開かれた扉を通り、組員達はぞろぞろと部屋を出て行った。 格納庫のある場所へは、一本の通路を通るしか行く方法がなかった。それゆえに、通路は人で埋まってしまっていた。格納庫に着いた組員達は、順々にMTに乗り込んでいく。MTが一体ずつ動き出し、建物の外に出て行く。MTの種類は、エグゾゼという高機動型MTと、ファイアーベルクという高火力MT、ブーバロスという重装甲MTの三種類であった。

「お、おい……四体目のACがいるぞ?どういうことだ?」

組員の一人が気づき、周りの者に聞いた。もちろん、みんな首をかしげている。 ハンティングドッグが所持するACは三体……その、どのACとも違うACがいるのだから、不思議で仕方がない。
みんなが見ている目の前で、赤いACは壁を破壊し、建物の外に出て行った。 その行動を見て、赤いACに乗るものがスパイであるということに、みんなが気づいていた。

「ふん。やはり……か。まぁいい……今更、無駄なことだ」

アダムが、ACに乗り込みつつ……言った。その後すぐ、すべてのACとMTの出撃が完了していた。 きれいに並んで、揃っている。 最前列に、高火力MTと重装甲MTの部隊が……その次の列には、『三犬』がいる。 三列目には、高機動型MT部隊が、最後尾の列には、量産型AC部隊がいた。

「いくぞ!隠れアジトとの戦いに……!」

リーダーであるアダムの掛け声とともに……全軍が、隠れアジトに向けて動き始めた。


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