第三話 隠れアジト襲撃



 「卑怯……か、結構なことだ。我々には、後などないのだからな」

リーダーである、アダムが言った。
アダムのAC名は、『スリーパー』という。 スリーパーは四脚で、頭部はMHD−MM/077というものである。 左腕にブレード、右腕にバズーカを装備している。 また……肩武装には、両肩グレネードを装備していた。機体色は、黄色である。

「後がない……?どういうことでしょうか?」

ロクが、怒り収まらぬ様子で聞いた。

「お前達は危険なのだ……隠れアジトが強大なものとなれば、我々はレイヴンを襲うことができなくなる」

アダムが淡々と話すのを聞いた瞬間、ロクは機体を動かした。
それ以上、聞く必要はなかったからだ。 レイヴンを襲う……どんな理由があるにせよ、そんなやつらを生かしておくわけにはいかなかった。
ロクの機体『六夜月影』は、ビットを射出する。ビットから放たれた光がMTを貫き、破壊する。 MTを一機破壊するごとに、ビットは攻撃目標を変え、次々に破壊していく。 ビットが撃ち落されぬよう、六夜月影も……ハンドガンを撃ちながら、敵の中に突っ込んでいった。 オルクの機体も、ロクに続いて……『サムライ』と呼ばれるブレードの武器腕で、MT達を切り裂いていく。 MTも黙ってはいない……すぐに反撃を開始した。
MTの数が多いゆえに、ロク達の機体は、少しずつダメージを受けていった。

「このままでは埒があかない……シルバ、頼む」

アダムがぽつりと言った。
シルバの機体が、MTの群の中を駆け抜け、ロク達の前に立ちはだかった。 シルバのAC名は、『アルティメットバスター』という。 アルティメットバスターは中量二脚で、頭部はMHD−MX/BEEというものである。 左腕にブレード、右腕にマシンガンを持っている。 また、肩にはリニアキャノンが装備されていた。そして、機体色は黒一色であった。

「ロクさん、こいつは危険だ……僕にまかせてください。おそらく、こいつは僕と同類です」

オルクは何かを感じ取ったらしく……ロクに、シルバの相手をさせようとしない。

「お前……まさか、私と同じ!?」

シルバの方も、何かを感じ取ったようだった。

「場所を変えよう。お前とは、一対一で戦わなければならない気がする」

シルバは、そう言うなり……機体に搭載されているOBを起動させる。 そして、オルクの機体に突進した。 突進したアルティメットバスターは、そのまま……オルクの機体を押して、どこかへ行ってしまった。

「やつが一騎打ちを望むとは……信じられんな。 それにしても……さっきから見ていれば、たった二機しかACが出てきていないな。 隠れアジトは、二人しかレイヴンがいないのか?それならば……我々は、隠れアジトというものを過大評価しすぎていたことになるな」

アダムが、淡々と言った。それを聞き……ロクが、否定するように言葉を返す。

「違います。みんな、どこかへ行っているだけですよ」

「ほう……ならば、逃げ出したのではないか?我々に恐れをなして、お前を見捨てたのだろうよ」

アダムの指摘に、ロクは黙り込んだ。 信じたくはないが、みんなどこかに消えてしまっている。 逃亡した可能性は、十分に考えられた。

「ふん……言葉もないか。アルチェット、相手は一人だ……二人で十分足りるだろう。ロクが死ねば、隠れアジトは終わりだ。いくぞ!」

アダムとアルチェットの機体が、MT達の前に出てくる。
アルチェットのAC名は、『ジェノサイダー』という。 ジェノサイダーは、逆間接脚で……頭部は、CHD−02−TIEというものである。ミサイルの武器腕を持っていて……肩には、中型ミサイルを二つ装備している。さらに、連動ミサイルも装備されている。機体色は、紫で統一されていた。
二体のACが、ロクの機体『六夜月影』を襲う。 アルチェットのAC『ジェノサイダー』から、ミサイルが射出される……それと共に、アダムのAC『スリーパー』が、バズーカを乱射しながら突っ込んでくる。
それに対し……ロクは、六夜月影に搭載してあるOBを起動する。そして、上空へ飛び上がった。六夜月影は、OBの機動力によって空中に浮いたまま……ほとんどの弾を回避する。一発ミサイルが命中したが、装甲がへこんだだけであり、大した痛手ではなかった。

「ふふ……そんな攻撃が、私に通用するとでも思っていたのですか?」

不敵に笑い、ロクはそう言った。言うと共に、六夜月影は着地した。 アダムは、悔しそうな顔でアルチェットに通信をつないだ。そして、指令を下した。

「くっ……アルチェット、あれを使え!」

「了解……」

アルチェットは、静かに……ただその一言で答えた。
次の瞬間、アルチェットの機体『ジェノサイダー』から、大量のミサイルが発射された。 ミサイルの武器腕、肩武装の中型ミサイル、連動ミサイル……それらが、全て一緒に発射されていた。

「ふふ……アルチェットのACは、違法改造済みだ。こういうことも可能なのだよ」

アダムが、にやりと笑みを浮かべて言った。

「ちょっとやばいですねぇ……」

ロクは、冷や汗を流しながら言った。 そして、六夜月影のOBを起動させる。
ハンドガンとスナイパーライフルを撃ち続けながら、六夜月影は空中に飛び上がった。 六夜月影は、ミサイルを撃ち落しながら、敵に接近していく。
しばらくして……六夜月影は、アルチェットの機体『ジェノサイダー』の真上をとった。 そのままの状態で、スナイパーライフルの狙いを頭部に定める。

「これで終わりですよ」

ロクがそう言った瞬間、スナイパーライフルから弾が発射された。
アルチェットの機体『ジェノサイダー』の頭部がスナイパーライフルの弾に貫かれ、爆発した。 弾は胴体まで貫通したらしく、アルチェットの機体『ジェノサイダー』の頭部の接合部から、火花が散っていた。

「くっ。アルチェット……」

その言葉が発せられたとき……アダムの顔は、あせりをあらわにしていた。

「これで、一対一ですね……」

ロクが、静かに言った。

「まだ負けたわけでもない……この機体にも、違法改造が加えられている。我が機体の真の力を見よ!」

アダムがそう言うと同時に……アダムの機体『スリーパー』が、グレネードの発射体勢をとった。つまり、地面に片足のひざをつき、もう片足はひざを立てた体勢だ。 その状態で、グレネードの弾が発射された。
グレネードは大抵……リロードの時間が長く、次の弾が出るまでにしばらくかかる。 しかし、そのグレネードは、ありえない速さで連射されていた。 グレネードの弾が、火球のような炎をまとって飛んでいく。 しかも、とても多くの数の弾である。

「避けきれない!?」

ロクが、叫んでいた。
グレネードの弾はあまりにも広範囲に発射されており、背後に隠れアジトの壁が存在したため、逃げ場がなかった。
OBの速度で飛び上がっても間に合わないくらい、グレネードの弾は速度があった。 弾速の強化もされているのだろう。
ロクの愛機『六夜月影』は文字通り、万事窮すという状態であった。
そのとき、通信が入ってきた。第一声に、ロクは嬉しさを感じた。

「ロクさん、助けにきたぜ!隠れアジトの、あの機能を使わせてもらうよ」

隠れアジトの壁が動き、ロクの愛機『六夜月影』の前に移動する。
六夜月影を覆いかぶせるように展開された壁は、シールドアームというものだ。 隠れアジト本体を守るためのものであり、実弾シールドである。 リニューアル後は、エネルギーシールドになる予定のものだった。 全てのグレネード弾を受け止め、シールドアームは破壊された。
ロクは、レーダーを見てみた。
レーダーには、多数の反応がある。 もちろん、ハンティングドッグのものではない。 それらは、隠れアジトの面々であった。その後方には、補給車が見えた。
ロクは……その数を見て、何かに気づいたようだ。それを言葉にして、言った。

「まさか……各地で依頼を遂行中の者たちまで、呼び戻したのですか?それに、補給車まで……」

「遅れてすまないな……だが、これでもう心配はないぜ。」

シアは、うっすらと笑いを浮かべながら言っていた。 それを聞き、ロクはうつむいた。そして、先ほど抱いてしまった思いを告白する。

「こちらこそ……一時とはいえ、逃げたなどと疑ってしまっていました。すみません」

「そりゃ、仕方ない。緊急すぎて、連絡できなかったからな」

シアは、笑って言っていた……どこまでも明るい男だ。突然、多くのACが現れたため……アダムは、とても焦っていた。 アダムは、隠れアジトのレイヴン達がこの事態に対応できないだろうとたかをくくっていた……味方にも黙っていた作戦なのだから。 にも関わらず、隠れアジトのレイヴン達は集結した。 数からして……集まったレイヴン達が、隠れアジトの全てのレイヴンである可能性は限りなく百パーセントに近い。 アダムは、焦りを隠すことができなかった。

「なっ……MT部隊、攻撃だ!あのACどもを殲滅しろ!」

言動にも、確かな焦りが表れている。 焦っているせいなのか……アダムは、量産型ACへの指示を忘れてしまっている。 量産型ACは、MTの後方で沈黙を続けていた。

「指揮は私がとる……全員、縦一列に並び、突撃せよ!」

リュートが、きわめて冷淡に指令を下した。隠れアジトのリーダーはロクであるため、ロクが指揮をとるのが普通なのであろう……しかし、リュートの方が集団戦の指揮はうまかった。 リュートは数々の戦場で指揮をとり、自軍を勝利に導いた実績がある。 ロクの方はというと……集団戦の指揮をとったことが、まるでなかった。 それゆえ、集団戦の指揮は隠れアジトの管理者であるロクよりも……リュートの方が適任であった。 以前から、ロクは……集団戦になったときの指揮を、リュートに任せていた。

「りょーかい!みんな、俺に続けぇ!」

シアは元気にそう言い、敵MTに突っ込んでいく。 リュートの指揮どおり……シアのACに続き、他のAC達が縦一列になって突撃する。 MTの群をACの群れが貫く。 そうなると、MTの群は……アリの群が統率を失ったようにばらけ、分散した。

「敵部隊の分散を確認!各自、自由にMTの撃破を開始せよ」

リュートが、レイヴン達に再び指示を送る。
慌てふためき、統率がなくなった軍には、自由行動での攻撃が有効といえる。 固まった陣形のままでは……なにから逃げればいいのかが明らかであり、良策ではない。 タイミングを掴み、自由行動の攻撃に転換させることが重要になってくるのだ。
完璧ともいえるその智略は、『神智のレイヴン』と呼ばれるにふさわしかった。
隠れアジトのレイヴン達がばらばらになり、MT達を次々に破壊する。 MT達のうろたえがますます高まり、やがて、逃走へとつながっていく。 もはや、MT達は逃げるのみであり、勇敢にACと戦おうとするMTはなかった。

「お、おい!逃げるな、逃げるんじゃない!」

アダムが必至に、MT達に指令を下す。しかし、その声が届くことはない。 みな、自分の命のことしか考えていない……友情などの情念が存在しない者達には、当然の結果だ。

「くそ……量産型ACへの指示が遅れた……。量産型AC部隊、隠れアジトのACどもを殲滅しろ」

アダムが、今更ながらに気づいて言った。 量産型AC達が大挙しておしよせてくる。 MTの後方に控えていた量産型AC達は、逃げ惑うMTを避けながらやって来る。

「こちら、シア!百二十五機のMTを破壊した。残りAP二千二百、けっこうきつくなってきたぜ」

「こちら、ロク……三百六十五機を破壊しましたよ。残りAPは五千二百、まだまだいけますよ」

あちこちから、戦況が伝えられる。リュートは、接近する量産型ACに気づいて指令を下す。

「敵の増援が来る……数は、こちらの方が少し勝っている。各自、遊撃せよ」

MT達に戦闘意欲はなく、すでに逃走をはじめている。
戦闘意欲が残っている者といえば、アダムと量産型ACに乗る者ぐらいのものであった。 隠れアジトのレイヴン達は、アダムのAC『スリーパー』と量産型ACに向かって突っ込んでいく。 ほとんどが量産型ACと交戦する中……数体のAC達が、アダムのAC『スリーパー』に襲いかかる。

「く、来るなぁ!消えろ!消えろぉぉ!」

もはや叫びにも等しい声を、アダムは発していた。
アダムのAC『スリーパー』は膝をつき、グレネードを構える。 そして、グレネードの弾を全て使い果たすといった感じで連射する。
何体かACを撃破するが、一体で数体のACを相手にするのには限界がある。 アダムのACがやられるのは時間の問題だった。 また、それらのレイヴン達が死ぬことは、ほとんどなかった。 一部分のパーツが破壊されただけで……攻撃によってACが爆発するようなことが、あまりなかったのだ。
アダムの機体『スリーパー』が装備しているグレネードは、弾がなくなり……バズーカの弾が少々残っているだけだ。 仕方なく、アダムのAC『スリーパー』は、バズーカを撃ち始めた。 そんなアダムのAC『スリーパー』に、一体のACが接近していた。

「あなたには、世話になりましたからね……これで、終わりにしますよ」

ロクの声が、アダムの乗る機体の中に響きわたる。そう、近づいてきたACは、ロクの愛機『六夜月影』に他ならなかった。

「くそぅ!こんなはずでは……こんなはずではなかったのに!」

アダムの機体『スリーパー』はなんとか、左腕のブレードで反撃に出ようとする。
しかし、時すでに遅し……ACのコクピットの間近、しかも、ど真ん中に……ロクの愛機『六夜月影』のハンドガンとスナイパーライフルが、構えられていた。 右腕に装備していたハンドガンは、マシンガンには劣るものの、高速で連射されていた。
スナイパーライフルは、的確に一点を貫く。 二つの武器の弾が集束し、コクピットを破壊していた。
コクピット内部が丸見えになってしまっているが、パイロットであるアダムの姿はなかった。 あるのは、滴る血のみである。 血はほとんどが蒸発してしまっているようであり、残っている血はものはほんの極わずかでしかなかったが、確かに存在していた。
そして、アダムがつけていたと思われるヘルメットがコクピットから転がり落ち……砂の大地にゆっくりと降下した。
人を殺した者には、それ相応の最後があるものだ。ましてや、私欲のために殺した者には、残酷な最後しか存在しない……そういうことなのであろう。 砂の大地で静かに佇むヘルメットの内側には、大量の血が付着していた。
  時を同じくして、オルクとシルバの戦いも決着を迎えようとしていた。 ロクや隠れアジトのレイヴン達がいるこの戦場より数十キロ先で、二人は戦っていた。 そう……二人以外の誰も存在しない場所で。 二人の機体は、ブレードで鍔迫り合いをしていた。
どちらも引く様子がなく、ただただ、ブレードとブレードをぶつけあっていた。 シルバのAC『アルティメットバスター』はブレード一つで……オルクのAC『オーディン』は、両腕の武器腕ブレードで……お互いに、お互いのブレードの進行を阻んでいる。
オルクのAC『オーディン』が両腕にブレードを装備しているとはいっても……シルバのAC『アルティメットバスター』のブレードとは、ブレード出力の差が存在する。 そのあたりもあって、オルクは、ブレード二つで鍔迫り合いをする必要があった。 もし、オルクのAC『オーディン』の二つあるうちの一つのブレードだけの出力が、シルバのAC『アルティメットバスター』のブレード一本と同じなら、もう一つのブレードで攻撃できたはずであり、鍔迫り合いはあり得なかった。 シルバのAC『アルティメットバスター』は、弾が切れたらしく、両肩リニアキャノンを装備解除していた。オルクのAC『オーディン』は、戦いが始まったときと同じままの装備である。

「そろそろ、決着をつけたいところだな……この世に最強は二人も要らん。そうは思わないか?」

シルバは、オルクとの戦いが楽しいらしく、笑いながら言っていた。通信から聞こえるその声に応答し、オルクは言った。

「そうですね……私もみんなの元に帰らねばなりません」

まるで答えになっていない……だが、シルバは、オルクの言ったことを無視するようにして続けざまに言う。

「ははははは……今こそ、決着のときだ!」

ふいに、シルバのAC『アルティメットバスター』が後ろに飛び去り、鍔迫り合いが終わる。
そして、オルクのAC『オーディン』に向かって、シルバのAC『アルティメットバスター』が突撃する。 マシンガンを撃ちまくりながら、シルバのAC『アルティメットバスター』は突っ込んでくる。
オルクのAC『オーディン』は信じられないことに……マシンガンの弾を、ブレードから出る光波で蒸発させている。 光波を避けながら、シルバのAC『アルティメットバスター』は接近する。 背後を取ろうというのだろうか……シルバのAC『アルティメットバスター』は、オルクのAC『オーディン』の周りを旋回しながら接近している。
しばらくその状態が続き、マシンガンの弾がなくなった。 シルバのAC『アルティメットバスター』は、マシンガンを装備解除する。 本来、シルバのAC『アルティメットバスター』は、オルクのAC『オーディン』に限りなく近い距離まで近づけるはずであったのだが……そうなる前に弾がなくなってしまった。
弾は十分にあった……近づけて当然であった。だが、そうならなかった……なぜなら、オルクが距離を調節していたからだ。 近づかれる度に後退し、距離を離していたのである。

「くっ……私としたことが……こんな簡単なことに気づかなかったとは」

シルバが、はっとして言った。
今更気づいても遅いが、普通のレイヴンでは気づかないぐらい少しずつ……オルクのAC『オーディン』は、距離を狭めていたのだ。 それなのに、オルクは対応した。 シルバのAC『アルティメットバスター』が近づいてきていることにいち早く気づき、距離を離していた。 しかも、相手にばれないくらいに少しづつ、距離を離していた。
策にはまったシルバのAC『アルティメットバスター』には、ブレードしかなかった。 シルバのAC『アルティメットバスター』は、ブレードから光波を撃ちだしながら、突っ込んでくる。
オルクのAC『オーディン』もブレードから光波を撃ちだし、それを打ち消す。
光波の威力は差がないようであり、両腕にブレードを持っている分、オルクのAC『オーディン』の方が有利だった。

「最強は俺だ!俺は、選ばれた戦士なのだ!負けるはずがなぁい!」

シルバはそう、わめきたてている。
シルバのAC『アルティメットバスター』は、その声に応えるようにブレードを振り上げた。 そして、ブレードを振り下ろす……しかし、そのブレードがオルクのAC『オーディン』を斬り裂くことはなかった。
オルクのAC『オーディン』が、シルバのAC『アルティメットバスター』の腹部を横一文字に斬り裂いていたからだ。 さらに、オルクのAC『オーディン』は続けて、縦にシルバのAC『アルティメットバスター』を斬り裂いた。

「俺は……最強……な…んだ…」

シルバは、確かにそう言っていた……体が、機体とともに真っ二つになる瞬間に。
シルバのAC『アルティメットバスター』は大きな爆発を起こし、消え去った。 オルクは、ACの中でその様子を傍観していた。傍観する時間は短かった。
次の瞬間、爆風によってオルクのAC『オーディン』は弾き飛ばされた。 機体が揺れる衝撃によって意識が失われ、目の前が真っ暗になる。
しばらくして、オルクは眼を覚ました。 オルクは、椅子から滑り落ち、のけぞった体勢であった。 ずるずると背中を上げ、椅子に座りなおす。
しばらくして、何を思ったか……オルクは、コクピットの扉を開けて外に出た。 機体は尻をついており、足を伸ばしていた。機体の上体は、前方に少し傾いている。
オルクは、弱弱しい様子で機体を降りる。そして、ふらついた足取りでゆっくりと歩き出した。 少し進んだかと思うと、どさりと倒れる。
オルクは、うつ伏せになった状態から寝返りをうって、仰向けになった。
そして、その状態でつぶやいた。

「最強であることを信じ、散っていった……おろかな男……か。僕は、相手を殺してしまった。 手加減して、命だけは奪わない……そんなことが出来ない限り、僕はどこまでも半人前だ。 最強など、名乗れやしない」

場所は変わり、ロクや隠れアジトのレイヴン達がいる戦場に移る。 まだ戦闘意欲を失わずに戦いを挑む、残りわずかな量産型ACを破壊するため、隠れアジトのレイヴン達は戦闘を続けていた。 そんな中……一人の男が、どこかに通信をつなごうとしていた。

「マザーコンピューター、敵と味方の残存勢力を教えてくれ」

リュートが、通信でそう言っていた。
隠れアジトにある中枢コンピューター……つまり、マザーコンピューターは、広域レーダーを搭載している。 そのレーダーは、熱源感知も可能であり……それによって、機体の機能が停止しているかどうかまで確認できる。 もちろん、レーダー上に存在する機体数と、最初の味方数を照らし合わせ、やられた機体の数も分かる。 また、敵味方の区別は、識別信号によってなされていた。 そのマザーコンピュータにアクセスし……通信で、知りたい情報を言えば……マザーコンピューターは、正確なデータをはじきだして返答してくれるのだ。

「リョウカイ……テキのMTはほとんどレーダーから消滅しマシタ。 MT数ヲ最初の千二百体から計算しマス。残存AC数は、二十五体デス。 テキのAC数を、最初の三十機から計算シマス。味方数ヲ、最初の四十九機から計算シマス。 テキAC残存数、五機。味方残存数ハ、四十三機です」

「そうか……さすがに数名は死んでいるのか。仕方がないな……これも、運命なのだろう」

意味ありげな言葉をつぶやき、リュートは涙を流していた。
彼は、仲間を指揮して戦ったことがよくある。そして、仲間の死の度に、強くなった。 仲間が死んだのは自分がふがいないせいだと、己を責めては強くなった。 今回の戦いも、彼を強くするのだろう。
そして、いつの日か……最高の指揮官として君臨するに違いない。 リュートが涙を流し始めてすぐに、全ての敵がいなくなった。 敵の、三種類のMTや量産型ACが、大地にうずくまり、沈黙していた。

「勝ったぞ〜!隠れアジトを守りきったんだ〜!」

リュートが泣く中……隠れアジトのレイヴン達は、ダメージで傷ついたACに乗ったまま、そう叫んでいた。


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