主よ、私は貴方に問いたもう

 

  なぜ、なぜ、貴方の誕生なさった日に、私達にこんなにもたくさんの厄災をお与えになるのでしょうか?

 

   私達が生きるだけで罪と言うのならば、全知全能たる主よ、なぜ貴方は私達をお産みになられたのですか?

 

 ある教会での聖堂女の嘆き

 

 

 

 

聖夜に、(Raven)は、残虐の限りを尽くす。

 筆舌に尽くし難いほどの光景だった。家は潰れ、黒煙を上げ、人だった物が落ちている。圧死され、内臓をはみ出している物も多く、辺りは紅一色。その場所に生きている者はいないのか? そんな疑念さえ差し挟む余地も無く、辺りには死が蔓延していた。

 そんな中、3体のACが佇んでいた。そこに在るというだけで災厄を振り撒いたのは目に見えている。だが、そんな鴉達を弾劾する者は、いない。そんな者は瓦礫の下で物言わぬ肉塊になっているか、黒焦げになっているか、もしくはバラバラになっているかだ。否、その光景の中に生存者はいる。だが、だれが声を上げる事ができようか。だれが、ちっぽけな銃を片手に死神相手に喧嘩を売る愚考ができようか? 歯向かえば殺す。生きていれば殺す。彼らの存在は明確にそれを主張している。

 

 もちろん、この街にもガードはいた。だが、その全てが、潰れている。雇われたレイヴンももちろんいた。常駐契約していた者が5人。全てがACに搭乗していた。だが、何て事はない。彼らはすぐに殺された。3機のACに。

赤い、タンク型のACが囮となり、その機体に集中攻撃を加えようと企てた瞬間、後方から、射突型実弾ブレード(パイルバンカー)をコアに向かって叩きこまれた。別の機体がその機体を捕らえようとした瞬間、後方を向いたACにグレーネードランチャーと、電子対抗手段(ECM)を発生させ、レーダーに映っていなかったACによるスナイピングが、ブースター部に直撃し、爆発、四散。その間でわずか5秒。

 それでも他の3機は動いていた。1機がタンク型に、そして残りの2機が先ほど後部から接近してきた4脚を相手にしようと動き出す。しかし、その選択は愚かと言わざるしかなかった。姿の映らないACによるスナイピング。それは確実に行われている。針の穴を通すほどの正確さ。人型兵器であるARMORED COREの致命的な弱点である関節部を狙ってきた。

 当然の事ながら体制を崩すそれを、4脚ACが見逃すはずも無かった。体制を崩した瞬間、ほんの僅かな無防備な時間に右手の射突型実弾ブレード(パイルバンカー)をコアに一閃。杭と共にその中に仕込まれた炸薬が爆発する。

 

 

そもそも、パイルバンカーは真正面から相手を迎え撃つために設計されたものではない。その設計思想は不意打ち。敵を撃ちに行くのではなく、迎え撃つ。右手武器という性質上、その右手には主力武器たる銃がもてない。だが、それでも現存しうるコアの耐熱防御を上回るほどの熱量、ニトログリセリンを化合した燃料による巨大な爆発を推進力とした射突による攻撃力は魅力的なのだ。

弾があるのに射程距離を限定されているのは、その巨大な初速さえも攻撃力として逃さず使用するためだ。

 ACの複合装甲と同様の素材によって形成されている為、単純な打撃力としては形状からして装甲を打ち破る為のそれはACをただ強固に包んでいる殻を楽々と打ち破るほど。

 挙句に、内部に装填されている火薬が超高熱の炎―――1000度に匹敵する――――を発生さし、内部からも抉る。特に、唯破壊する為だけに作られたKWB−SBR44は、実質総合地最強とされる、月光剣(MLB−MOONLIGHT)や短刀の二つ名を冠す、攻撃力では月光剣(MLB−MOONLIGHT)以上を誇るCLB−LS−3771の攻撃力を易々と上回る。

 現に、数値以上の攻撃力はKWB−SBR44ならばだせるのだ。パイルバンカーの使用方法はACの腕の振りによる第一段階目の衝撃、巨大なまでの初速と爆発によって打ち出される第二段階、装甲内部を抉った後、炸薬による熱量。第一段階目をARMORED CORE本来のスペック――――――それは機体の自滅を無視するとしてだが―――――を出し切ればACのコア程度ならば易々と貫通さす事ができる。

 しかしながら、それほどの攻撃力をもってして不意打ちとは銃を持てない故に仕方の無い事。だから、それの使用者達は機体を特化させざるを得なかった。最高のOB速度を持つコア(MCL−SS/RAY)と最軽量を冠される脚部であるCLL−HUSEOか、最高の旋回速度を持ち尚且つ、4脚で最軽量のCLFD3−WIZを。扱いやすさといった点では軽量2脚の代表格であるCLL−HUSEOが上であるが、旋回性と安定性――――なんらかの要因での転倒ではあるが――――――といった面でCLFD3−WIZが上。となれば、必然的に特化させざるを得なくなるのだ。どちらの脚部も総積載量が低いのであるから。

 

 

 同時に行動を移したACが撃破された。その瞬間にもう一方のACOBで距離をとった。その判断は至極当然。近距離特化の機体に近距離戦を挑むのは愚の骨頂。

 落ち着いて考えればなんていう事は無い事に思考を廻らす事の出来なかった自分を叱咤しながら振り向けば、先ほどまで自分と対峙していたACの姿は無かった。

 離脱。不利な状況になれば離脱する。至極まともなその思考に、若干苦笑しながらもレーダーに映らない相手を視覚のみで探そうとする。いた、先ほどのレーザーブレードと射突型実弾ブレード(パイルバンカー)を装備した機体が目の前で左手のブレードを振り上げていた。

 咄嗟の判断でエクステンションに装備されたバックブースターを使って後退する。だが、相手はそれを見切っていると言わんばかりにマルチブースターを使用し、広げた分の距離を縮めてくる。

 悪態を付きながら、両手に装備されている銃を掲げようとした、否、掲げたと思った。だが、先ほどの一閃。コアを狙ったそれは急速に後退したACの腕を切り取っていた。狙った獲物は逃さないと言うように、右手の射突型実弾ブレード(パイルバンカー)を突き出してくる。避けようの無い的確な、ただ相手を殺す事にのみ特化した一撃。だが、まだ諦められないとばかり、コンデンサ容量が尽きるのを承知の上で、バックブースターを機動――――――――――

 

―――――――銃声が、淡々と響いた――――――――

 

――――――する事はできなかった。

 呆気なく、遠方から狙撃で壊された。なぜ? と思考する間も、どうして相手がレーダーに映らなかった? と思考する間もなく、杭と炎によってその命を奪われていた。

 

 

 タンク型ACは2機のACを相手にしながらも、どこにも、焦りは感じられなかった。囮となる為にその装甲は異常と言えるほど強固であるし、また相手を見失ってもすぐさま捉えられるようにとターンブースターを装備している。そして、己が躯体に装備されし武器は凶悪だ。ビルの陰に隠れているAC爆雷投下型ミサイル(CWM−BM80―1)で燻りだす。このミサイルは高速で動いている相手には無力に近いが、市街地でビルの陰に隠れている敵を攻撃するという一点においては非常に優秀だ。一発の値段は高いが。兎も角、このミサイルで攻撃するのと同時に隠れているビルに向かってグレネードランチャー(CWG−GNL−15)を発射。隠れているビルを潰す。勿論、自分の攻撃はビルに当たる。だが、最早ビルごと攻撃されるとは思ってなかったであろう相手は当然ながら焦る。焦った後は簡単だ。飛び出してきた所を、関節部に向かってバズーカ(CWG−BZ−50)を放てばいい。それだけで相手は動きが鈍る。数瞬対峙してわかったのは2点。先ほどの不意打ちにより、萎縮しているのと、元来の動きのそれが、明らかに自分よりも劣っている点だ。ならば後は簡単だ。いつもの如く、狩りの開始だ。

 囮になる為に派手なカラーリングと速度を棄てて装甲を持たした。機体。一見すればそれだけ。コアでさえ、OBタイプであるといえ、OB速度よりも堅牢さを重視したそれは、真に鋼の塊。並の攻撃は攻撃にさえなりはしない。

 鈍重と、そんな印象を与える機体だ。だが、その実それは狩人であった。相手が隠れているのならば燻り出す。いや、隠れている場所を叩き潰す。暴風とも言えるその攻撃力の起源は、グレネードランチャー(CWG−GNL−15)バズーカ(CWG−BZ−50)を使用する時にあえてFCSの起動をカットし、目視―――一般には脳内FCSと呼ばれている―――――撃ちによる。それが当たるのだ。自分の体の延長の如き愛機に搭乗している時のみ可能な芸当であるが、FCSの補正をカットし当てるのは至難の業だ。だが、遠距離時では、FCSの補正なんぞ当てにならない。微細な角度調整は今のFCSではできない為、自分の腕で当てる。

先ほど、関節部を攻撃され、転倒したACの上に飛び乗り(・・・・)搭乗者を圧迫死(・・・)させる。

 

そして、常駐するACを潰したら、後は簡単だ。MTなんぞ物の数になるわけが無し、市街地を破壊し尽くす。その様、暴君。その様、死神。悪鬼羅刹の如く破壊の限りをしつくした。命ある者を見つけると、踏み潰す。教会を除いて、生者の抹殺。それが、■■■■■■■■、つまりは閉鎖された領域に住まいし者より送られたクリスマスプレゼントであった。

 

 

 人は叫び、紅き血が舞う。そして、場違いな雪が舞う。

  今日は聖夜。基督教の神であるイエス・キリストが誕生した日。

   そんな日に、神が人々にもたらしたのは―――――――――――――――

「痛いよぉ、お母さん助けてよぉ」

――――――――――――――なんて事は無い、厄災という名の破滅だった。

 

 あるホームレスの嘆き

 

 ああ、あれを見た瞬間俺は悟ったよ。奴らは化け物だって。何故だか知らんが教会を残してこの街の全ての建造物をぶち壊しやがった。あれを正に鬼って言うんだろうな。

 あん? 俺はどうするのかって? この町から逃げるよ。見ての通り財産なんざ、自分の命くらいだからな。

 たくよ、今日は聖夜だってのに。

 

 

 

ある修道女の嘆き

 

主よ、私は貴方に問いたもう。

 今日という日、この教会に偶然きていた人を除いた全ての人がお亡くなりになられました。

  何人もの人々がRavenに恨みを抱きました。勿論、私も抱きました。貴方は私達に何を求めているのですか?

 

主よ、私は貴方に問いたもう。

 これが貴方のお与えになった試練なのですか?

  これが、今日という日、あなたが御産まれになった日に、あなたへの感謝の念を、そして、その生誕を祝った私達に対する返礼なのですか?

 

 ならば主よ。私は今ここでロザリオを棄て、修道女としての身分を棄て、唯の悪鬼に成り下がろうと思います。

  人をお救いなられない主よ。私は、私の意志をもって、何時の日か、彼等を殺そうと思います。

   それが、この地で非業の死を負った方達に対する、私のせめてもの手向けです。

 

 

主よ、教義を捨てる事をお許しください。

 

そして、人である私が人を裁く事をどうかどうかお許しください。

 

信仰を棄てた私は、復讐を遂げた後、自殺いたしますから。

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