あれは俺がまだ幼い頃の話だ。 一人のレイヴンがこの世を去った。それは俺の親父だった…。その時、俺の母は泣いていた。親父のACだった鉄屑を見ながら…。 俺は幼いからかその時の記憶はあまりない。只、母が泣いていたのは覚えていた。 そしてそんな事も忘れ、俺はいつの間にかコックピットに座っていた。レイヴンだ。今思えば何故ACに乗ったのか少しは理解出来た…。親父の血が俺にも巡って入る事も…。そしてこのACという鉄屑を駆る事も…。 母はいつもこんな事を言っていた。 「お父さんの様にはならないでね…。」 母は優しく、時に厳しい女性だった。 現在、母は親父と一緒にいる。俺が社会人になってからすぐ病で亡くなった。 親父がレイヴンだという事は母の遺品から分かった。俺がレイヴンになって半月経ってからだった…。 俺は母を裏切ったのだ。今になって少し後悔している自分がいた…。 ・ ・ ・ たまにコックピットに乗って操縦桿を握る時こう思う時がある。 「こんな時代に生きたせいかもしれないが、結局俺は親父と同じだったのかもしれない…。」 ―――― 第一話 ミッション始動 ―――― 試験監視員から通信が来た。 「レイヴン試験合格だ。おめでとう。今日から君はレイブンだ。」 僕は「ふぅ」とため息をついた。 「まずはおめでとう。」 「ありがとうございます。」 僕は答えた。 すると試験監視員が 「しかしこれからが本当の戦いだ。ソラから落ちないように頑張るんだな。」 と最後にボソッと言った…。 ・ ・ ・ 僕は少し強張った。念願のレイヴンにはなったもののこれからどんな強者がいるか分からないからだ。なんせトップランカーはミッション成功率100%さらにアリーナでも現在負け無しで人気ナンバーワンのレイヴン【ヒルマン】のAC【ガーゴイル】である。以前からアリーナを頻繁に観戦していたが今考えるとゾッとする想いだ。 少し考え頭を振った。僕なんかが相手になるはずがない。今レイヴンになった者がトップランカーを倒せるもんか。せいぜい下位か良くて中位をうろつくくらいだろうな。 「さて…。」 ようやくレイヴンズアークのガレージに着きACがハンガーにかけられる。 オーグが来た。もともとレイヴンに興味はあった時に知り合い、僕にレイブンになる様に進めた元会社の同僚だ。 「レイヴン試験合格おめでとさん。流石、俺が見込んだ男なだけあるな。」 「何言ってんだ。まだ試験が合格しただけだぞ?これからどんな奴がいるか分からないのに…。」 「いやいや、お前の実力なら良いところ行くんじゃない?トップランカーも夢じゃないって!」 いつもの事だがオーグは調子が良い。 そこにメカニックのコムが口を割ってきた。 コムはレイヴン試験合格と共にアークレイヴンズから僕の専属メカニック担当になった男だ。 僕はあまりコムの事を好きではない。何故ならこの話し方が好きではないからだ。オーグもコムの事をあまり好いてないように見えた。 「おめぇら邪魔や。今から整備せあかんねんから、こっから出てくれんか?上から物が落ちてきても知らんで。」 「そんな言い方しなくたっていいだろ?メイがレイヴンになったんだから。祝いの言葉とかないのか?」 「わいはぎょうさんレイブン見たから分かるけどレイヴンになったからってずーっとレイヴンちゃうんやで。この前のレイヴンなんか一回目のミッションでいきなり死んでもうて後の『処理』が大変やったわ。」 コムが苦笑している側で僕は試験監視員の言葉を思い出した。 それと同時にオーグがコムに喧嘩口調で言った。 「はぁ?お前はすぐメイが死ぬって言ってんのか?いい加減しろよ!」 「もう止めろ!オーグ!向こうにある休憩室に行って落ち着け。」 「頼むわ。こっちもこれから色々やらんとあかんさかい。」 僕は作り笑いで会釈をし、オーグを引っ張りながら休憩室に連れて行った。 「本当に何やってんだよ。メカニックの邪魔したら駄目だろ?」 オーグは不満気に答えた。 「あいつが悪いんだよ。メイが試験に合格したのに…。」 「仕方ないだろ。試験に合格したからってこれから上手くいく訳ないんだから。」 「メイもあのムカつくメカニックと一緒か?」 「違うよ。でもあれは多分本当だと思うよ?」 「あれって?」 「試験合格して初めてのミッションで死んだっていう話。」 「はぁ?どうだか!」 オーグは吐き捨てる様に言った。 「僕も試験合格した時は嬉しかったよ。でも…。」 「でも?」 「最後に試験監視員が『これからが本当の戦いだ。ソラから落ちないように頑張るんだな。』って言ったから…。」 「じゃあそうならないようにしたらいいんじゃない?」 「そんな簡単な事言うなよ。これから何が起こるか分からないんだぞ。」 「お前なら上手くいくさ。俺の見込んだ男だからな♪」 「全くオーグは調子良いんだから。」 その時、オーグの腹から雄叫びが聞こえた。 「ははは…何か腹減ったな。飯でも食べるか?」 「仕方ないなぁ。食堂でも行く?」 「そうするか。ここからすぐだからな。」 僕たちは休憩室を後にした。 食堂。 ここはレイヴンズアーク内にある食堂である。 好みのうるさいレイヴンが結構いるらしくメニューも豊富である。 僕達は席に着きメニューを見た。 「さぁーって何食べようかな。じゃあグリーンサラダとオニオンスープ、後はレアステーキとライス大盛りね。」 「よくそんなに食べられるね…。僕はミートスパゲティだけでいいや。」 「お前こそスパゲティだけでいいのかよ?明日から依頼が沢山来るかもしれないのに。」 「今日はこれだけで俺はいいんだよ。」 「ふーん…。」 それから料理がきてからオーグは凄まじい速さで食べ終わった…。例えるなら獣の様だった。 「人間じゃないな…。」 「ん?何か言った?」 「いや、何でもないよ…。」 いつもの事だが彼の食欲には驚かされる。 僕は呆れてそれ以上言葉にしなかった…。 「さぁーて食べ終わった事だし祝いにこれから何処か遊びに行くか?」 「悪いけど僕はいいよ。今日は何か疲れたから寝るよ。」 「んー…まっ、明日には依頼が来てるかもしれないからな。ゆっくり休めよ。」 「うん。じゃあまたね。」 僕達は食堂を出てその場で別れた。 ・ ・ ・ 僕はそれから家に帰りベットに横になって少し考えた。 (レイヴンにはなったけど全然実感が沸かない。) (まだ合格したばかりだからか?) (いやそれより明日の依頼はどんな依頼かな…。) (少し不安だな…。) (考えても仕方ないか…。寝よう……。) ・ ・ ・ そして朝が来た。 さっそくレイヴンズアークに行き自分専用のオペレータールーム兼ミッションルームに行った。 オーグが依頼の資料を持ちながら話しかけてきた。 「あ、おはよ。さっそく依頼がきてるよん♪」 「嬉しそうだね。」 「当たり前だろ。お前に依頼がきてるのに嬉しくないはずがないだろ?さっそく依頼受けたから話は後にしてこれを見てくれよ。」 「…勝手に受けんなよ。」 オーグはその台詞を聞こえていないフリをして依頼の資料を俺に渡して続けて話し始めた。 「見た感じではかなり楽な依頼みたいだぜ。」 「うーん…ナービスの依頼でクレスト調査部隊の全撃破。開始時間は…18:16か。」 「調査部隊の撃破なら楽な依頼だろ?所詮、相手はMTだけだろうからな。」 やけにオーグは気合が入っている。 会社に勤めていた時もそうだったがオーグは仕事は早い。 そんな気合の入っているオーグに俺は気にせず答えた。 「まだ時間に余裕があるね。」 「じゃあガレージにある【エスペランサ】見てくれば?俺も時間までにはスタンバッてるから。」 【エスペランサ】とは僕の愛機で中量二脚の平凡なACだ。僕とオーグの退職金で何とかして買えたACでもある。 「うん、行ってくるよ。」 初の依頼のせいかやけにニヤニヤするオーグを無視するかの様にメイはガレージに行った。 周りをキョロキョロしている僕にコムが話しかけてきた。 「おはようさん。」 「あ、おはようごさいます。」 「タイミングええなぁ。セッティングとチューニングは今すんだとこやで。」 「そ、そうだったんですか。」 「そんな固くしゃべらんでええよ。普通通りに話したらええ。あいつみたいにな。」 コムは微笑して言った。 「あぁ、オーグですか。昨日はすいません。」 「ええよ。別に気にしとらんし。男はあれぐらい気合入ってないとあかんわ。」 まるで俺が気合が入ってないように言われた…。 俺は話を誤魔化すように答えた。 「そ、それで機体の調子はどうですか?」 「さっき動作チェックと機体の細かな所見たんやけど大丈夫や。今すぐにでもミッション行けるで。」 「今からテストしていいですか?」 「構わんで。わいも見てたるさかいやってみぃや。」 ・ ・ ・ テスト終了。 コックピットから降りてきた僕にコムがさっそくという感じで話しかけてきた。 「どやった?ええ感じやろ?」 「はい。やっぱり軽量腕にして正解でしたね。標準も正確で弾がしっかり軌道に乗ってます。ブレードの振りもそこそこ速いですからこれで良いと思います。」 「ミサイルの軌道はどや?」 「こんな感じで良いと思います。後は…。」 「後は、なんや?」 「ちょっと機動力がないように感じました。」 「しゃーないやろ。金がないんやからブースターはこれでないともっときっつぅなるわ。今はこれが精一杯や。そんな贅沢言うなや。」 「すいません…。」 一瞬沈黙が流れた後、コムが重い空気を消すように話し始めた。 「まぁええわ。ミッション頑張れや。おめぇはええ奴やから前のパイロットみたいにならんようにしろや。」 「は、はぁ。」 僕はガレージに整理されているACパーツを見ながらぶつぶつ言うコムの背中を見ながら昨日の言葉を思い出していた…。 ・ ・ ・ そしてミッション開始時間。ACを一機、乗せて輸送機が飛び立った。 俺はその【エスペランサ】のコックピットに乗った。 するとオーグが確認するかのように通信してきた。 「そろそろミッション開始時間だ。後、3分49秒したら現地に着く予定だ。」 「了解!」 「初めてだからって硬くなるなよ。」 「う、うん。」 「よし。戦闘準備に入ってくれ。」 オーグの声色が変わるのが分かった。 「了解。戦闘準備に入る。」 ACのメインシステムが起動した。 「メインシステム。戦闘モード、起動します。」 機体のCOMが片言で言葉を発した。 それからすぐに輸送機のオペレーターから連絡が入った。 「現地到着。これよりACを投下する。」 「りょ、了解。降下します!」 「これが本当の緊張感か…。」 愛機が地面に着地してからメイはボソッと囁いた。 僕は試験とはまた違う戦闘の緊張感を体の節々で感じていた…。 |
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