強張りながら操縦桿を握った。 何故か呼吸が荒くなる。心臓が激しく鼓動している。明らかに動揺している。 オペレーターのオーグから通信が入る。 「調査部隊のMTを確認。こちらからは4機確認した。」 メイは急いでモニター右上部のレーダーに目をやった。 「あ、こっ……こっちもレーダーに4機確認!」 心配そうにオーグが言った。 「大丈夫か?調査部隊はそのまま南西に移動している。お前の場所までもうすぐだ。」 「…大丈夫。オーグのおかげで少し落ち着いたよ。ありがとう。」 オーグの口調が変わった。 「じゃあ直ちにミッションに戻ってくれ。」 「了解。敵の撃破に移る!」 自分に気合を入れるようにメイは答えた。 視界は良好。出撃する前にテストをしたせいか機体動作も良好。チューニングも違和感がない。 『シューーーー…ン』 メイの駆るACが加速する。ブースター移動だ。 一機だけ前に出ている敵を目視で発見。識別信号無し。逆関節MTだ。武装は貧弱な小型ミサイルと無反動砲。要するにACにとって「カモ」とも言えるべき相手である。 「まず一機。」 念じる様にメイは口にし操縦桿を握る手に力が入る。 『バスンッ!バスンッ!バスン!』 右腕に装備されているライフルが火を噴いた。 「な!?AC?何処から…。」 MTパイロットがそう言う前に逆関節MTは被弾しその場から煙をあげ崩れ落ちた。 「一機撃破!」 メイは歓喜を上げると同時に【エスペランサ】が更に加速する。 「敵との距離が遠い…ここはミサイルか。」 メイはぶつぶつ言いながら一機、そしてまた一機と撃破していく。 「くそっ!ACなんて聞いてねぇぞ!」 MTパイロットが愚痴るかのように言葉を吐いてから小型ミサイルを発射した。 メイは無言でミサイルを交わしブレードで最後の逆関節MTを切り裂いた。 『ガシャン!』 あまりの反動にMTは一瞬宙に浮き、その場で吹き飛んだ。 「周辺にエネルギー反応なし。敵部隊の全滅を確認しました。」 機体のCOMの声を聞いたメイは「ふぅ」と溜め息をついて、緊張の糸が切れたかの様にドサッとシートに崩れた。 メイは胸に手を当てると先ほどの激しい鼓動が無くなっているのに気付いた…。 ・ ・ ・ ハンガーにかけられた【エスペランサ】を眺めていたメイにオーグが話しかけてきた。 「初ミッション成功おめでとさん。」 「あ、あぁ…。」 「どうした?元気がないようだけど…」 「いや、ミッション開始時はあんなに興奮してたのに今はなんで落ち着いてるんだろうと思って…。」 「そりゃあ、あれだろ?終わってみたら大した事ないミッションだったからじゃないの?これからどんどん慣れて興奮する事も無くなると思うから心配ないんじゃないのか?」 「違うよ。その慣れてくるのが怖いんだ。MTは人が操縦しないと動かない…その動いている物を俺は破壊する…。だから怖いんだ。」 オーグの眉が険しくなったのが分かった。 「お前は『人殺し』とでも言って欲しいのか?」 オーグは厳しく俺に言った。それと同時にこうも答えた。 「でもMT(敵)を破壊しないとお前は死ぬ。そういう世界だ。勿論これからAC戦(アリーナ)もあると思うけどな。」 「アリーナはしっかりとした設備があるじゃないか!破壊されてもミッションと違ってメディカルスタッフがいる!」 僕が続けて言う前にオーグが口を挟んだ。 「でも100%安全とは言い切れない。年に何人か死んでるしな。」 オーグは困ったように頭を掻きながら続けて答えた。 「この話はまた今度にしよう。今日は初ミッションで疲れたろ?しっかり疲れた体を休めるんだな。」 このまま口論を続けるのは無意味だと判断したのかオーグは手を左右に振りその場を去って行った。 僕はその場にたたずむしかなくぼーっと【エスペランサ】を見つめていた。 少し時間が過ぎたのか、コムが僕に話しかけてきた。 「おい。もうミッションも終わって結構な時間たっとんのに何ぼさぁーっとしとるんや?」 「…お疲れ様です。少し【エスペランサ】を眺めていたんです。」 「ほうか…でもびっくりしたで。まさか無傷で戻ってくるとはな。ほんまは戦闘エリアを出てもうたかと思ってもうたで?」 笑いながら言った。 メイはその笑いに干渉される事なく答えた。 「そ、そうだったんですか。」 「おぅ。初ミッションで無傷で帰ってくる奴は久しぶりに見たわ。」 「そ、そうですか。」 「ん?なんや。あんま元気ないやんか。どないしたねん?」 「それが緊張しちゃって…」 コムは鼻で笑うように答えた。 「初めてやもんな。そらしゃーないわ。でもな…」 コムがそう言おうとした時に館内放送が流れた。 「けっ!またかいな。わいは専属メカニックやのにほんま人使い荒いわ。ほなまたな。」 どうやら他のレイヴンの修理作業に呼び出されたみたいだ。 コムは愚痴りながらその場を後にした。 ・ ・ ・ メイはガレージで 「ここで考え事をしても仕方ない…な。」 「これからどうしよう。」 「明日はどんな依頼がくるんだろう。」 などとぶつぶつ言葉を吐きながらレイヴンズアークを背にしているメイがそこにいた…。 |
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