第1話:Wheer of Fortune−後編−

 弾丸が飛び交い、レーザーが大気を焦がす。
 そんな中、シャールカーニュを駆るティレーネは相変わらずおっとりとした口調で指示を下す。

「はいはい、ウインドは格納庫へ標的を探してきて。ジグルドは私と一緒に敵を殲滅してください」

 砲弾数発が、シャールカーニュの装甲を叩くが一向に気にせず、密集している敵部隊をインサイトする。

「さぁ・・・いただいちゃいますよ・・・」

 少女の可憐な微笑に一瞬だが残酷なモノが混じった時には、バックユニットの多弾頭ミサイル・ポッドと連動ミサイル・ポッドからミサイルが発射――同時に起動したEOからレーザーが放たれる。敵部隊はミサイル群とレーザーに屠り尽くされ、煙を上げる残骸と化した。
“黒聖女”が操るシャールカーニュは残骸を踏みしめて、さらなる敵を求めた。


「さて、どこにあるのかな?」

   今しがた出会ったカイノスを撃破し、ウインドは格納庫内部の探索を進めていた。こういった破壊対象が限定された閉所では、銃器よりブレード等の格闘武器が役に立つ。レーダーに目を遣ると、目の前のコンテナの背後に熱源反応がある。当然敵だ。
 コンテナの遮蔽を無効にするにはコンテナ自体の破壊が必要だが、愛機のワイルドギースはさほど強力な火器を装備していない。そうなると危険を回避するために回りこんで撃破するのが妥当だろうが、ウインドは一向に頓着せず、無造作にコンテナへと機体を近づける。そして、ワイルドギースの左腕に装備されたXLB/MOONSHADOW――“月影”を起動させると、コンテナに大出力レーザーエッジを拝み打ちに振り下ろした。
 少し遅れてコンテナの向こう側で微かな衝撃が有り、モニターの端にDESTORYと表示される。
 輪切りになった端の部分が衝撃で横倒しになると、そこには元の形が何であったかわからない金属片が在るだけだった。

  「奥かな?」

 コンテナの中身を見て、“剣鬼”はさしたる感慨も無く、探索を再開した。


 ガシャン!

 最後のMTが倒れ込むと、撃破したジグルドはパーツの探索を任せたウインドに回線を開いた。

「こっちは全部かたずけたぞ、例のブツは見つかったか?」

 しばらく間を置いて落ち着いた声が返ってくる。

<・・・・妙だよ。コンテナも全部調べたけど、どこにも目当てのパーツは無いな。もう持ち出されちゃったんじゃないかな?>

「むぅ・・・困ったな」

 基本的に受けた依頼はいかな内容であろうと、完遂するのがジグルドの信条だ。このまま引き下がる気は毛頭無い。

「ウインド、赤外線反応は無いか?持ち出したんなら何か反応が残っているはずだ」

<ちょっと待ってて・・・え〜と、まいったな。俺のはそれ程高性能じゃなかったな・・・・>

 などとブツブツ言ってるのが丸聞こえだ。

「・・・アリウスにやって貰えよ、時間が無い」

 小さく溜息と共に提案したが、アリウスの歓声に遮られてしまった。

<ジグルド、ティレーネさんが基地から離れていくトレーラーを見つけたって!>

 アリウスから連絡が入る、もはやグズグズしていられない。

「おぅ、でかした。追跡するよう伝えてくれ」

 ウインドにも追撃を伝えようとしたが、既にウインドは格納庫から出てOBで追跡に入ったのが主光学センサーが捉える。

「・・・・どいつもこいつも」

 憮然として一言洩らすと、ジグルドもOBを起動させて追跡を開始した。


「う〜ん、もうちょっと・・・・」

 闇夜を進むトレーラーの赤いテールランプを追いかけつつ、シャールカーニュのコクピットで、ティレーネは何とかスナイパーライフルの射程内に捕捉しようとするが、EOタイプの重量2脚で追跡するのは不便極まりなかった。

「早くしなきゃジグルド達に手柄を奪われてしまうわ、もうちょっとがんばってね」

 愛機を励ましつつ、ティレーネはようやく照準内にトレーラーを納めトリガーを引き絞ったが、さすが重要らしいパーツを運んでいるらしく、トレーラーは素早く位置を変えて弾丸をやり過ごした。

「まあ!?・・・残念、でも次は外しませんよ?フフッ」

 不気味な含み笑いを放ちながら、今度はしっかりとトレーラーを捕捉しようとしたが――

<待て、そいつは俺の獲物だぞ!>

 ジグルドの声がスピーカーから聞こえたのと同時に、シャールカーニュの左右から2体のACが通り過ぎる。

「ああっ、もう来ちゃった!」


「残念だったな、こいつは俺が受けた依頼だ。だから俺が仕止める!」

 トレーラーとの距離を詰めつつ、ジグルドは不敵に宣言しつつトリガーを引く。
 マシンガンから放たれた弾丸は、蛇が獲物を追うような砂塵を上げつつトレーラーに牙を剥くが、命中寸前に後方からの弾丸がトレーラーのすぐ横に着弾し、トレーラーは反対方向に避けたのでマシンガンが発した弾丸は荒野の砂を舞い上げただけに終わった。

「あ、こらっ、ウインド!」

 シュツルム・ティーゲルより少し後ろにいるワイルドギースは、脚部と装備のせいでシュツルム・ティーゲルより加速性能は低いが、装備されている対AC用ライフルの射程距離はマシンガンを上回っている。

<へへへ・・・標的は先に仕止めた方のの手柄だって事、先に決めただろ?>

 そう言いつつも弾丸を連射するが、どれも際どいところで外れる。さらに後方にいるシャールカーニュが放った弾丸が、トレーラーをかすめて飛んで行く。

「ああ、もう・・・こうなったら取り付いてやる」

 ブースタによる移動からOBに切り替える。プラズマ・ジェットのノズルが展開し、パワーチャージを始めた。

「いただき!」

 一気に加速したシュツルム・ティーゲルは、そのまま牽引されているコンテナに飛び乗ろうとしたが、突然のロックオン警報がジグルドを反応させる。
 闇を切り裂く光の尾を曳きつつ、どこからともなくミサイルが一機飛来してくる。エクステンションの迎撃装置は切っていたので起動させている暇は無い。何よりミサイルは自機との距離を50メートルを切っているので、間に合わないだろう。
 トレーラーの頭上でミサイルが割れ、中から小型の爆雷を投下するのが見えた。
 ジグルドは即座にOBをカット、だが生じた慣性は殺さずそのままスロットルを思い切り引き付けつつ、ブースタを吹かす――シュツルム・ティーゲルは脚を振り上げて重心を移動させると、後方に宙返りを放つ。機体のつま先をかすめ落ちた爆雷はトレーラーをメチャクチャに引き裂いた。
 次世代型軽量2脚型ならではの荒技を放ちつつも、ジグルドは即座に銃器の残弾状況とレーダーを確認する。だが――

「ん・・・反応が無いぞ・・・」

 索敵範囲を最大にしても、何の反応が無かった。

 「アリウス」

<・・・変だ。何の反応もない、どこから来たんだミサイルは?>

 ジグルドは主光学センサーを巡らせつつ呟いた。

「誰だ・・・どこに居る・・・?」


 モニターの中で、漆黒の機体が頭部を巡らせている。
 男は複雑な面持ちで呟いた。

「やはり生きていたか・・・ジグルド」

 発せられた声は――悔恨と憎悪を含んで擦れていた。


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