第三羽

翔がレイヴン試験を受けて三ヶ月後、機体のアセンブルも安定してきて、ランキングも23位となかなかの成績を保っていた頃、クレストから奇妙な依頼が舞い込んできた。
依頼のレポートを見るに、クレスト管轄のアリーナであるレイヴンと対戦して欲しいとのことだった。少々変わった依頼だったが、アークのアリーナと何ら変わりはなさそうに見えたので、翔は受けることにした。

<ガレージ>
早足でガレージに向かうと万全に整備された機体がそこにあった。
BLACK KNIGHT、リニアライフル、二連装ブレード、マイクロミサイル、デュアルミサイルと安定した装備をしているように見えるだろうが、敵に致命傷を負わせる為にハンガーユニットにはプラズマライフルがセットされている。
翔は機体に乗り込むとOSを起動させた。スピーカーからは機械的な音声が聞こえてくる。

『機体各部システムチェック中です・・・FCS、ジェネレータ、ラジエータすべて異常なし。武装データロード終了。通常モード、起動します。』

機体ロードが終了したようだ。翔は機体を輸送ヘリのハンガーにセットさせた。

<クレスト要塞NK-432>

『レイヴン、作戦領域に到達した。ACを投下する。』

遅いんだよ、ウスノロが。と言わんばかりに翔はモニター端に映っているパイロットの顔を睨んだ。
まぁ、ヘリの性能上、遅くても仕方ないのだが・・・
 この要塞、NK-432は50年以上前のサイレントライン事件時に暴走した無人要塞だが後に有人式大規模要塞に改修された。
クレスト有数の難攻不落の要塞である。

<NK-432 ガレージ>
なかなか広いガレージだな・・・等と思いながら機体を駐機した。
オイルと整備士の汗とが混じったにおいがするのはアークのガレージと変わりはない。
翔がコックピットを開けるとすぐに整備士が作業に取りかかる。OSの再点検、武器の弾丸の装填・・・ ふと翔は弾丸の入っているコンテナの文字を読んだ。

【AC用リニア弾 取扱に注意】

通常アリーナでは模擬戦闘用弾丸が使われる。だが、これは実戦用の弾だった。翔はすぐに整備士に聞いてみた。

「おい、それは実戦用弾なんじゃないのか?」

『・・・・・・・・・・・・』

整備士は何も答えない。胡散臭いにおいがぷんぷんとにおってくる中、翔はリフレッシュルームでくつろぐことにした。

<NK-432 リフレッシュルーム>
非常に小汚い上に、煙草臭い。とりあえずソファーに腰を降ろした。

『お前・・・レイヴンだな?』

横にいた40代程の大柄な男が話しかけてきた。

「あぁ、そうだが・・・?アンタは此処の・・・?」

その男の服の右胸のポケットの部分にはIDの様なモノが書かれたカードをつけていた。

『そうだ、“囚人”だ。』

囚人?何を言ってるんだこの男は・・・?

「囚人?何のことだ?」

『何だ?クレストから何も聞かされてないのか?』

クレストが俺に何かを隠していると言うことか?
確かに、此処は基地にしては妙に怪しい。翔はもう一度質問しようとした時、男の方からこの基地についての事情を説明し始めた。

『いいか?この基地はただの基地じゃない。クレスト内で問題を起こした奴らが此処に集められて来る。』

「アンタは何をしたから此処にいるんだ?」

『クレストの内部事情をミラージュに売ろうとしたんだよ。もう少しだった所をレイヴンに強襲されてそのまま殺されはしなかったものの、此処にぶち込まれたってワケだ。』

なるほど、そういうことか。此処は戦線防衛兼、囚人の収容所ということか。
翔が納得して頷いていると男はニヤリと笑いながら質問してきた。

『何故此処にアリーナがあると思う?』

「囚人の娯楽か・・・?」

そう答えると男は、そういうと思ったぜ、と言うような顔をし、また口を開いた。

『誰もがそう思う・・・俺もここに来たときはそうだと思ってた。実際はクソッタレのクレスト幹部共の娯楽さ。“レイヴンと囚人を殺し合わせる死のゲームさ。”』

翔は唖然とした。同時に納得もした。整備士がリニアライフルに実戦用弾を入れていた理由が解った。
その時、突然アナウンスが入った。

『これより“プログラム”を開始する。囚人番号D-3672とレイヴンは模擬戦用ホールにACを移動せよ。繰り返す・・・』

立ち上がるときにふと翔は男の囚人番号カードに目をやった。

「D-3672って・・・!!」

『そう、俺だよ。お前を殺らないと俺が逝っちまうんでな。マジで行かせて貰うぜ。』

そういうと男は立ち上がり薄暗い廊下に消えていった。
翔も少々暗い面もちでガレージに向かった。

<NK-432 模擬戦用ホール>
模擬専用ホールのゲートが開いた。アークのアリーナと同じほどの大きさだが、ものすごく静かだった。
前にはモニターにはACが映っていた。重量逆間接にレーザーライフル、マシンガン、小型ミサイル、レーザーキャノンといった装備だ。火力で勝つことはできないだろう。
操縦桿を握り直すと、カウントが表示された。
3・・・2・・・1・・・GO!!
完全にアリーナ用のモードになっており、APも表示されてはいるが、役には立たないだろう。
翔はOBを起動させ、逆間接ACに一気に近づいた。逆間接ACは全く動かない。
リニアライフルの射程内に入りいつも通りトリガーを引いた。弾丸は敵に直撃し装甲を削り取る・・・“はず”だった。
突如閃光に弾丸はかき消され、その“死の光”はBLACK KNIGHTに吸い込まれるように近づいてくる。

「クソ!!」

翔は機体を右にスライドさせ、コアへの直撃は何とか逃れた。しかし、BLACK KNIGHTの細く、優美な腕は肘から無くなっていた。もうブレードは使えないだろう。
今度は紫の閃光が何発も発される。モニターは閃光の直撃で何も見えなくなっていた。


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