――――――AC試験会場――――― 【C−6フロア】 黒月はギリギリの時間で試験会場へ到着すると、さっさとAC試験登録をしてしまい、先ほど入ってきたGC(グローバルコーテックス)の試験官の説明を受けていた。 「―――以上が試験内容です。なにかご質問等ありましたらそのあたりにいる試験官にどうぞ」 試験内容は至って明快、まずACの機能をどの程度まで把握しているか確認するための射撃テスト、 それから合格者が発表されるとその合格者は模擬のミッションを受けて貰うことになる。 そういえば、この試験では同時にオペレーター見習の試験も兼ねていると聞いたが…まあ、サポートなんて物は無くても構わない。 気にする必要は無いだろう。 黒月はそんなことを考えながら廊下を歩いていた。 フロアには7〜8名の受験者がいて、この中から合格者が選ばれるのだ。だが、誰か一人が必ず受かると言った物ではなく、合格者無しという結果も良く聞く。 受験は順番に行われるので最後の方に回された黒月は手持ち無沙汰にしていた。 「よお若いの、お前もAC試験者かい?」 横のベンチに座っていた肌の浅黒く長身で体格の良い男が声をかけて来た。 「ああ、初めての受験だがな」 黒月はその男に向き直ってそう答えた。 なかなか精悍な顔つきをしている、ACパイロットでは珍しいが誠実な性格のように見えた。 「そうか、若いのに大した奴だ、ここにいるってことは筆記の方は受かったんだろう?」 実は先週、この試験会場で筆記試験が行われ、今日はその合格者が集まってテストをしている、いわば“2次試験”というやつだ。 「まあ、なんとか受かったようだな。だからここで落ちたくは無いな、落ちたらまた3ヶ月待たなきゃならない」 「はは、そうだな、俺はそうやって1年ふいにしたぜ、なかなか筆記が受からなくてな」 「そうか」 実は黒月も筆記にはかなり苦労した…何しろスラムには学校という物は存在しない、全て独学でやってきたのだ。 「技術面の方は自信があるのか?」 黒月はそう尋ねてみた。 「ああ、つい1年前まではMTに乗ってたからな、ACは操作性は違うだろうがまあ、勘で何とかなるだろうよ」 黒月は少し驚いた、MTはACと違って戦場ではたやすく大破する。数が多いので確率は分散されるが…ACなどと戦闘をすると全滅などしょっちゅうあることだ。 この男はその死線を潜り抜けてきたのだ。 こういうMTからACに乗りかえるといったパイロットは希少で実戦ではかなり重宝されるそうだ。 「そうか、敵として会いたくは無いな」 「はは、こっちも子供と当たりたくなんてねぇよ。俺の名前はデュラン、実名で全部通すから覚えといてくれよ」 「黒月だ」 そう名乗っておいた。 「ああ、よろしく黒月っと、次は俺の番だな」 受験者が戻ってくる、なにやら顔色が悪いが…あまり上手くやれなかったのだろうか? アナウンスが流れる 『受験生07、デュラン・アドワード、A−5フロアまで来てください』 デュランがこのフロアを出て行く、その時黒月が見たデュランの顔は、さっきまでの愛想の良いやつとはまったくの別人のように無表情で強い眼光をしていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 【AC射撃試験会場管制室】 「今回の受験生は…射撃がほとんど全滅的ですね」 AC試験会場の管制室でここの局長に任命されている人物が窓から見える受験生の姿を確認しながら隣の部下に受験生について話しかけている。 「ええ、筆記の方は全体的になかなか優秀だったと思いますが、これでは実戦では危うすぎます」 部下はそう感想を言う 急に局長が背後を振り返り 「貴方はどう思われます?セレスさん?」 局長の背後には黒いパイロットスーツを着込み、イスに腰掛けている男がいた。 「さっきの受験生07の射撃はなかなか良かったと思うが…」 ぼそぼそっとした声で答える。 「ああ、彼は経歴にMTパイロットだったと書いてあったので」 「そうか、結構いいライバルになりそうだと思ったんだが」 局長は苦笑し 「はは、貴方くらい強くなれるパイロットですか。それが今回の受験生で出てきたら一興ですね。何せ次の模擬ミッションではあなたが試験管なのですから」 やがてセレスと呼ばれたパイロットも笑い出し。 「そうですね、まあ、残り3名に期待しますか」 「B−6のあなたに勝てる人物か…もしこの時期に出たらAC界にあなたに続く期待の新星が生まれますね」 ぼそっと試験官の言った言葉はあまりにも小さくて他のものには聞こえなかった。 「次は…【黒月・レインベル】か」 試験官がアナウンスを入れる。 「受験生10、黒月・レインベル、Aー5フロアまで来て下さい」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 【AC射撃試験会場】 しばらくして、殺風景な試験会場に一機の初期フレームのACが重々しい音を立てながら入ってきた。 「これがACか…機体の基本操作は説明書にあった通りだ」 アナウンスが流れる。 「それでは、射撃テストを行います。今から1分間の間、ライトの点滅しているブロックをロックし、それを撃ってください。では、テスト開始」 モニターに制限時間が表示される。 CPU:システム起動… ACの腕が前方に伸びる… 黒月は動きやすいようにミサイルとブレードをパージした。 そしてスロットルを全開にする。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 【AC射撃試験会場管制室】 なにやら試験官がざわついている。 「これが、ACパイロット受験生?…うそだろ」 「目標物をこれだけの数を破壊?並の受験じゃないだろう…」 「一度もAC試験を受けたことは無いと前歴には書いてあるが…」 試験官が色々な感想を述べている。その中で黒いパイロットスーツを着た男だけが冷静にまだ試験会場を駆け回っている初期フレームの期待を見つめていた。 「どうですか?期待の新人と言うやつですかね?この受験生10は」 なにやら興奮の混じった声で局長が話しかけてくる。 「…………」 男は無言でこのパイロットの異常性に気づいていた。 試験開始から最初の十秒の間はACに慣れない初心者の動き、どこかぎこちなく旋回しブーストしながら目標物を破壊していた。 しかし、今はACを使いなれてきた、なりたて3ヶ月と言った具合のパイロットの動きをしていた。 (この短時間の中でACの使い方を学習しているのか?) ビ――――― 試験終了の合図がなる。 「終わりました、目標物51個破壊、ミス2です」 また管制室にどよめきが起こる。初心者用射撃テストとはいえ、ACに触ったことも無い、ただ知ってるだけの受験生がここまで正確に射撃を行えるものだろうか? (これは受験と言うより勉強だな…パイロットのとっては) セレスと呼ばれるパイロットはその時、確かに笑っていた。 |
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