Vol.3

――――――――――――――【レイヴン試験会場】――――――――――――――

【C−6フロア】

「よ、おつかれさん」

射撃試験会場から戻って来た黒月にデュランが労いの言葉をかけてきた。

「ああ、お前もな」
と、黒月は答える。

「意外と上手くやれたのか?」

「(い、意外と?)ああ、うまくやれたよ」

「ほう、もしかするとお前は受かるかもな」

そうやり取りをしているあいだに最後の受験生が帰ってきた。
辺りの受験生はやはりデュランと黒月のように談笑なんかをしている。
フロアはこれといった装飾が無く、ただ、飲み物などの自動販売機と二つほどの観察用植物があるだけだった。
煌煌と明かりを出しつづける電灯だけが妙にこの部屋で目立っていた…

「結果発表は13時からか、あと十分ほど時間があるな」

デュランは自動販売機の前に立つと硬貨を入れ、清涼飲料水を二つ購入した。

「ほらよ」

そして、無造作に一つの清涼飲料水を黒月に手渡す。

「ああ、ありがとな」

レイヴンを目指す者―(この世界で生きていこうと思う人物)―ならば、人から貰う飲み物には注意をしなければならないのだが、まあ、この男が黒月を狙う理由も無いし、大丈夫だろう。
そう結論を出し、黒月は缶のプルを起こし、一気缶をにあおる。

黒月が清涼飲料水を半分ほど飲み終えたとき、GCの試験官がフロアにやってきた。
黒月は慌てて立ち上ちあがる。あたりが一斉に静まる。
もう一人後方に誰か控えているが、こちらはどうやらGCの人間ではないらしい、黒いパイロットスーツを着ている。

(パイロットだろうか?)

パイロットスーツを着ているからにはパイロットには間違いないのだろうが、所属機体が気になった。
黒月がそう思った時だった。
GCの試験官は書類のような物を出し、それを見て、そして試験の合格者を発表した。

「それでは合格者の発表をします。受験生07デュラン・アドワード、受験生10黒月・レインベル、両二名は直ちにA−5フロアに集合し、次の試験の準備をして下さい」

「よっしゃ!!ちょろいぜ!!」

デュランの心底、喜んでいると思える声が間近で聞こえる。
パチパチとどこからともなく拍手が聞こえ始めた…
しかし、黒月は一度も笑おうとはしない。
おめでとう―――――試験者がそう言った言葉をかけてくる。
それでも黒月は笑わない………いや、笑えないのだ。

さっきからずっと“ヤツ”がこっちを見ているのだ…喜びたいけど喜べない…

一体あいつは何なんだ?

「どうした黒月?」

その言葉が、鍵であったように、黒月は緊張を――――――――(緊張せざるをえなかった状況を)――――――解いた。

「いや…なんでもない…行こう」

デュランは目元に怪訝そうな顔を浮かべ、そしてこう言った。

「ああ、そうだな。まだ試験は終わってないからな」

GCの試験官が惜しくも不合格となった人に労いの言葉をかけながらこれからの説明と、GC商品、グッズなどのセールスを始めるとヤツ―――――(GCの背後に控えている黒いパイロットスーツを着た人物)―――――は廊下を戻り出した。

「ああ、落ちた人にはいつもあれなんだよな、GC商品のセールス、やっぱ資金稼ぎの為なのかねぇ…」

デュランがふざけて見せる。
黒月は苦笑した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【A−5フロア】

A−5フロアには、部屋を入って前方に巨大なスクリーンがあり、ドア際の部屋の隅にパイロットスーツのあるロッカーと更衣室がある。
それ以外の装飾などは一切無く、やはり無機的で殺風景な感じがする部屋だった。

「――――――――以上が模擬ミッションの内容です」

言い終わると同時にスクリーンから映像が消える。
GCの試験官がそういって、後ろにいる黒いパイロットスーツの男にマイクを渡した。
そしてGC試験官は男と変わって、後ろに控えた。

「君達二人、ここまでの合格おめでとう、しかし先にこの世界にいる私からすればまだ君達は目標を達成していない。まだ任務途中と言うことだ」

黒いパイロットスーツの男はそれほど自分と歳は変わらないようだが、何か高圧的な物の言い方をする。そして、そう言うことに慣れているような雰囲気を持っている。
しかし、何より印象的だったのは、入ってきて、その存在を感知できなかったことだ。
レイヴンを目指す物として、肉体的、精神的にもかなりの訓練や技術を積んでいる黒月やデュランだったが、彼の存在を感知したのは先に部屋にいた試験官が彼に折畳式のイスを差し出した時だった。
そして、その“奇妙”な感覚に二人とも首を傾げるのだった。
その黒のパイロットスーツの男は、話からするに今度の試験の試験官らしいが…

「私は次の最終試験の試験官を務めるセレスというレイヴンだ」

「!!」

彼の発した最初の言葉は、二人に衝撃を与えた…
彼―――セレスというレイヴンの声は高く、しかし、声をわざと押さえているようで何とか男性と判別できるような声だった。

黒月は、セレスというレイヴンがアリーナランクBー6のレイヴン―――――頂点から数えて9番目に属するレイヴンだったと記憶している。

「やはり、最終試験はトップランカーレイヴンが試験官というのは本当だったのか…」

とデュランが呟いた。

「レイヴンとして、その力があるかどうか――――その合否は私の経験が決める、生半可な力では確実に戦場で命を落とすからな。厳しいようだが見極めさせてもらうよ」

セレスと言うレイヴンはさっきのように黒月を観察するようなことはしていない。あれは何だったのだろうか?
あの時に感じた気配は無視することが出来ないくらい強い物だったので、今いる彼は別人ではないのか、という考えを起こさせる…もちろんそんなことはないのだが…


「以上だ。1:30分から作戦開始だ。遅れるなよ」

そう言ってセレスは壇上から降りていく。
彼を注意して見ていた黒月はその様子を見ていたがやがて、表情に驚きが走った。

壇上を降りていく彼は、顔に笑みを浮かべていたのだ。その笑みが冷たく、黒月は呆然とその場に立ち尽くした。

「それじゃあ、俺はパイロットスーツに着替えてくるから」

その一言で黒月は我に帰った。
どうやらデュランはセレスというレイヴンの表情を見ていなかったようだ。いや、それとも自分の錯覚だったのだろうか………

「あ、ああ」

我ながら情けない声を出していると思う。
デュランは少し怪訝な顔をして

「? お前、さっきから少しおかしいぜ?――――って、今日会ったばかりの奴にこんなこと言うのもどうかしているかな」

そうデュランは皮肉めいて言い、さっさとフロアの隅にある更衣室に行ってしまった。

(アイツは…何者なんだ?)

しかし、その疑問に答える者は誰も居ない…


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