【レイヴン試験模擬ミッション目的基地上空】 「なんだ、OBでも耐えられてるじゃん」 「奇跡的にな」 「やっぱ訓練で僕がジャイアントスイングをかましたのが効果的だった様だねw」 「うるさい…」 たわいもない話をしながら黒月機は天空を駆ける… そろそろ目的の施設が近い、黒月はいったんOBを切り、ビルに着地した。軽い衝撃がコクピットにも伝わる。周囲にまだ反応は無い、マップから位置を推測してみるとあと3000弱という距離だった。 これ以上マップを表示しておくのは邪魔になるだけなので、黒月はマップを閉じモニターにレーダーを表示した。 ―――――――――――――【繋がり〜The link〜】Vol.5―――――――――――――― 「クレス、索敵の方はどうだ?」 「ん、前方に熱源を感知した。どうやらMTのようだね」 「詳しい機数は分かるか?」 「ちょっと待って」 そうしている内にエネルギー容量が満タンになった。スロットルを全開にし、今度はOBではなくブーストしながら少しずつ目標地点に近づいていく…モニターから周囲を見ると、ビルが流れていくような錯覚が引き起こされる…… 「機数13、それ以外に一つ大きい熱源があるけど…もう一人の受験者かな?」 「ああ、多分そうだろう。戦闘は始まっているのか?」 「いや、熱源に激しい動きは無い」 「わかった。何か変わったことがあったら追々連絡してくれ」 「了解」 長年同居生活をしているだけにクレスと黒月の息は合っている。知合いなので別に遠慮はいらないから幼馴染みがオペレーターというのも悪くないかもしれない。かといって、さっきみたいなことは御免だが… しばらく移動していると、AC用レーダーにも赤い反応が出てきた。ブーストを切り、エネルギー回復を待つ… (さて、ここからどうするか…) まだ辺りは廃墟のようなビル群があり、障害物により視界は悪い。コクピット内に外気の冷気が伝わってくるようだ…外気温度表示計には14℃と表示されているのでその感覚はあながち間違ってはないだろう。といっても外気がコクピットに伝わると言うことはないのだが… 黒月がそう思考している時、デュラン機から通信が入った。 「よう黒月、遅かったな」 「ああ、今着いた。さて、こっからどうするか…」 謝りの言葉も言わず、黒月はそう答えた。しかし、それでデュランの機嫌が悪くなるわけではなかった。レーダーの前方、右上に緑色の反応がある。デュラン機のようだ。 「MTのレーダーはACの物と索敵性能や読み込みが違う、もちろん反応距離も…な」 1年前までMTに乗っていたデュランの言葉だ、信用に足るだろう。 「一気に奇襲をかけるか?」 「ああ、このミッションは模擬だから…あそこに群れてるのは多分、無人機MTだろう。AIと生身の人間では対処能力にかなりの差が出るからな」 「そうか、じゃあ俺が先行する。デュランは援護を頼むな」 「…大丈夫か?坊主は実戦は初めてだろう?」 「シュミレーションをこなしたからな、多分いける」 「…了解」 実際、シュミレーションと実戦ではかなりの違いがあるのだが、デュランはあえてそれを言わなかった。相手はAIなのだ、シュミレーションの敵とそう変わらないだろう… スロットルを少しだけ上げ、機体を地上から少し浮かす。一気に強襲し、全滅を図るために黒月はOBを発動させる。ハッチを開く時に機体の軋む音が聞こえた。…初期フレームではOBは4回が限度という事は勉強したので分かっている。そして、黒月機は時速500kmを超える速度でビル群の上部を疾走しはじめた。 (あと残り2回ってとこか…) 「黒月…分かってるよね?」 クレスから釘刺しとおぼしき通信が入る。 まだACに慣れてないパイロットに一番危険なのは“自分の力へのおごり”なのだ。それが分からなかったパイロットはすぐに命をおとしてしまう…それがこの世界での弱き者への教訓… 「ああ、無理はしない。心配するな」 暗黒にOBの残滓を残しながら黒月機は地上を駆ける… 敵の居る地点が近くなる、敵MTがモニターでも確認できる距離まで一気に急速接近する。幸い、敵MTが集結しているエリアは広く障害物も少ない、戦闘はしやすいようだ。 ピピピピピ… 黒月は素早くコクピット内の射撃用スコープの起動スイッチを押し、眼前にスコープを持ってくる。 (雑魚MTのランスポーターだ、確か主武装はライフルと小型ミサイル、この数相手ならこの機体でも十分通用する!) 瞬間にそう判断し、黒月機はMT群の比較的数の多い場所へ真正面から姿を現した。しかしランスポーターはまるでこちらの動きに対応したような反応を示し、素早く旋回し、隊列を整え、接近して来た所属不明のACにライフルを放ってきた! 「何!!?」 OBを切りブースターで機体を横にスライドさせる、ライフルは黒月機をかすめ、後方のビルや黒月機が一瞬前まで居た地面に直撃した。幸い機体に着弾した様子は無い。しかし、黒月機の周囲が着弾の埃や煙のせいで視界が悪くなる。 ピピピピピピピ… 黒月機は煙から逃れる為、上空へとブースターをふかし、ロックオンサイトに敵MTを捕らえる。スコープ内にロックされた表示が赤い色に変化する。敵をセカンドロックした。 ガンガンガン!! ライフルが重い爆発音をたて、弾を3連続で発射する一機のランスポーターが弾を腹部、腕部、脚部に受け、火を吹きながら沈黙した。 敵MTは報復とばかりにミサイルを6、7発撃ってくる。 「ミサイルか!」 スロットルを全開にし、機体を左右に振りながら後退する。何とか大半を空中で回避で来たが2発ほど被弾しコクピット上部から軽い衝撃が伝わる。運良く被弾した部分は胸部だったので火器に影響はない。 だが黒月はここで意外なことを耳にする。 「レイ…ヴン…」 「!!!」 何故か使われないはずの敵機回線から通信が入ってくる! (まさか…そんな…) 「らああぁぁぁ!!」 黒月が機体を地面に着地させた時、援護のために控えていたデュラン機がOBで高速接近し、オレンジ色のブレードを形成してそのまま突っ込み、一機のMTを真一文字に切り裂いた。MTは数秒間不気味に振動していたが、やがて爆発し、沈黙した。 MTを切り裂いた後、デュラン機は素早く旋回しライフルをMT群に立て続けに撃ちこみ、MTを攻撃、牽制していた。 「待て、デュラン!!」 デュラン機がライフルを撃つのを止めた、しかし、敵MTはその隙を突いたかのようにミサイルを放ってくる! 「!! …まさかこいつは…」 そう言いながらブースターをふかし、後退しながらミサイルをかわす。どうやらデュランもこの異常に気がついたようだ。黒月機が援護射撃とばかりに、デュラン機とMTの間の地面にライフルを乱射する。辺りに砂煙が舞った。 「そうだ、このMTには人が乗ってる!!」 |
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