Vol.1

ここは黒月達の住むスラム地区から最寄の市街地、企業の中で最大の勢力を誇るクレストの管轄下にあり、スラム地区とは対比的に地上の中でも高層ビルなどが立ち並び屈指の規模を誇る大都市だ。
企業勤めの者、学生、など様々な人が行き交う歩行者天国の街中を二人の少年が歩いて行く。彼らは人通りの多い表通りから薄暗い細道を通り、少し抜けたあと迂回し裏通りに出てまた少しばかり歩く。
その先にその店はひっそりと建っていた。二人はその店への階段を下って行く。

―――――――【物語の始まり〜Reven fry to the spring sky〜】Vol.1――――――――

―酒場【夢瑠璃】―

店の中は少し薄暗く、天井はそんなに高くなかったが横が広かった。店の作りは洋風で、ライトなんかもそれなりに酒場という雰囲気を醸し出している。店にはクラシック音楽が流れており、スラム出身の黒月達には結構居心地が良い。
二人が店に入るなり明るい声がした。この店のマスターの声だ。

「いらっしゃい!__お?」

「よう黒月!それにクレスも、二人とも試験合格したんだってな!」

マスターの明るい声に黒月が答える。

「ああ、マスター、何とか念願のレイヴンになれたよ」

実はオーナー自身スラム出身であり、その誼もあるので黒月とクレスは良くこの店に来ていた。この店では酒類など飲み物の他、マスターの手料理なんかもある。いわば飲食店に近い店なのだ。二人は結構お世話になってたりしている。……もちろんツケで。

「レイヴンか。死と隣り合わせの世界だからな…まあ、俺がこう言うのもなんだが…頑張れよ」

「そう簡単に死なせませんよ、黒月は」

クレスが答えた。マスターは稼ぎ出したらつけ払えよ〜と言い、苦笑した後、店の奥にあるテーブルを指して言った。

「ほら、先客がお待ちだぞ」

その指の指す方向には二人の人影があった。一人は体格の良い褐色の肌の男。そしてもう一人はストレートの長い金色の髪をした、かなり美人な二十歳くらいの女性だった。

「オーナー、俺オレンジジュースね」

「あ、僕は洋梨で」

「まいど!」

二人は先に注文を出しておき、奥のテーブルへと足を運ぶ。ここである人達と食事の約束をしていたのだ。

「よう、黒月。先にやってるぜ」

話しかけて来た男の名はデュラン、先のレイヴン試験で黒月と一緒に最終試験まで合格し、黒月と共にレイヴンとなった。黒月の話によると、豪放で誠実な性格らしい。

「黒月さん初めまして、ティナと言いますその節はどうも」

丁寧な挨拶言葉を言って彼女は軽く会釈する。黒月はその凛とした声に聞き覚えがあった。

「ああ、レイヴン試験の時のデュランのオペレーターさんですか、初めまして。俺は黒月って言います」(Vol.6参照

そう言いながら黒月とクレスは椅子に座る。実は黒月がこの祝いの誘ったのはデュランだけだったのだが…

「俺が誘っておいたんだ」

と、デュランが黒月の考えを見透かしたようにそう言った。

「よろしく、黒月さん。先日のオペレーター試験に合格してGCに配属されました。黒月さんって結構若いんですね〜。クレスさんと試験会場で会った時も年齢に驚きましたけど」

確かにこの年齢でレイヴンになる人物は少ない、普通、黒月やクレスは学校に通っているのが適切な年齢なのだ。

「俺は模擬ミッション試験でこいつがオペレータだったからかなり驚き…と言うか焦りましたけどね」(Vol.4参照

そう行った後で黒月は横目でクレスを見るが、クレスはそっぽを向く。それを見てティナが笑った、何か珍しい物を見た気がしたのでそれに免じて黒月はクレスに何も言わなかった。

「そういや騒いでたな。あの時、まあそんなことは良いだろう!今日は景気付けに乾杯と行こうぜ!」

そういって右手に持ったグラスを掲げる。

「(そ、そんなこと)ってかもう飲んでるじゃん」

黒月が軽いジャブをデュランにかます。だが、デュランは一向に気にした様子がなく豪快に笑いまた口にジョッキを運ぶ。

「そうなんですよ。この人もうビール何杯目飲んでるんでしょうか」

ティナが呆れたように溜息をつく。という彼女も既に2杯ほどのモスコミュールを飲んでいて、空になったグラスがテーブルに置いてあった。溜息をついた後、彼女はグラスに口をつける。

「なーに言ってんのティナ!こういう時は飲むしかないでしょ!!」

流石はデュラン、もうティナと呼び捨てだった。黒月に至っては坊主扱い。
図ったようなタイミングでマスターが黒月達の飲み物を持ってきた。

「ほらよ」

マスターはクレスにはちゃんと洋梨ジュースを持ってきたが、何故か黒月の前に出されたジョッキに入った飲み物は泡立っている…オレンジジュースは泡立たないはず…

「ま、マスタぁ〜勘弁してくれよ〜」

マスターは“酒場で酒を飲んで何がおかしい、これはおごりだ!!”と言い捨て、ニヤリと笑みを浮かべカウンターへと戻っていった。マスターはこういう面白そうなことにはかならず参加するような人なのだ。

「フッ、クールにいこうぜ、黒月」

横から五月蝿い奴が何か言ってるが、台詞がキザ過ぎて良く分からん。

「はは、今日は倒れるまで飲むぜ〜!マスター俺ビールおかわりな〜」

デュランが言う。一体何杯飲む気なのか…その傍らでティナが溜息をつく。
腹をくくるしかないか…どうやら逃げられないようだ(特に横の五月蝿い奴から
覚悟を決めた黒月は一気に酒を飲み干す、横からおぉ、とクレスが感激する声が聞こえる。飲み終えた後、数秒沈黙が訪れた、まさしく静寂と言うにふさわしい―――が

「…うッ…」

バタン!!
その静寂は崩れ、黒月が椅子から転げ落ち、仰向けに倒れた。顔がほんのりと赤い。実は黒月は酒に極端に弱いのだ。クレス達のみならず、周りの客からも失笑が漏れる。

「ダサい」

クレスが辛口な評価を口にする。

「はっはっは、こいつは良いな。からかい甲斐がある」

ティナがやれやれと言った表情でまた溜息をついた。


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