終章

――とあるスラムの一郭――

時刻は夜半、周囲に人工的な光源は見えず、ただ月光と星だけが窓から部屋へと青白い光を与え、ベッドにいる少年の顔を照らす。
少年はさっきから頻繁に寝返りをうち、姿勢を変える。今は両腕を組んで頭の下に置いている。眠ることが出来ないようだった。

―――――――【物語の始まり〜Reven fry to the spring sky〜】Vol.3――――――――
【天上の光〜Meteor】

「(明日は機体の換装が終了するな)」

少年はついこの間、試験を合格したレイヴンなのだ。明日は少年の友人が見つけてくれたガレージに少年の注文した機体の換装が終了する予定になっている。そして初の依頼を受け、成功した時、少年は空へと羽ばたく…
少年はまた寝返りをし、目を閉じる…

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

コクピット内一杯に赤い光が輝き、続いて連続した爆発音が耳をつく。
黒月は目の前の赤い光をただ、呆けたように見ていた。
その赤い光が残滓を残しながら消えた後、モニターには着弾のものと思われる粉塵が視界を埋め尽くしていた。

「…まだ生きてる?……おい黒月、大丈夫か!?」

通信機から男の声が聞こえる。

「…どうやら生きているようだ」

どういうわけか、20発近くあるミサイル群に襲われても機体にはミサイルによる被弾は無いようだった。
ここにきて、黒月と呼ばれた少年はこの状況の不審な点に気がつく。

「デュラン?なぜ俺たちの通信システムが回復している?」

そう言った瞬間だった、急に粉塵が突風を受けたかのように撒き上がり、拡散し、周囲の視界が晴れた。目の前には、ぼろぼろになったもう一人の受験者―――デュランの機体が直立不動のままで、たたずんでいた。
そして、デュラン機から少し離れた前方にある蒼い光――――見なれぬ銀色のACが蒼いブースターを吹かし、地面より少し上空に浮かんでいた…

「増援…レイヴンか!?」

どこからか聞きなれない声が黒月機の通信機から聞こえる。どうやら今まで戦闘していた敵MTの部隊からの通信のようだ。ビルから出てきたMTはこの所属不明のACの出現に慌てていた。さっきまで黒月たちの命を脅かしていた物とは到底思えない。

「(通信システムが回復したのか……まさかこの機体がジャミングを更に妨害した?)」

黒月は前回線をオープンにするが目の前のACパイロットとおぼしき人物の声は聞こえてこない。

「ええい、とにかくあのACを攻撃しろ!!」

敵の部隊長とおぼしき人物の通信が入ってくる、敵に通信が筒抜けとは夢にも思ってないだろう。
数機のMTと旋回してきた戦闘機が先頭体勢に入る。
瞬間、先ほどまで微塵も動かなかった銀色のACがブースターの出力を上げ、完全に空中へと浮上した。MT群と戦闘機が浮上した機体に向かってミサイルを放つ。
銀色のACは空中で旋回し、黒月機の正面を向き、大気を割り、高速で黒月機の後方へ離脱する。

―――RAY――――

光と名づけられたそのコアは闇を蒼い光で切り裂き、とてつもない速度で天空を駆け、ミサイルの追尾を振りきる。余りの速度に追尾性能の限界を越えたミサイルは銀色の機体を逸れ、あらぬ方向へと散っていく。銀色の機体はその速度のまま左へと回りこみ旋回し、向かってくる戦闘機達を真正面から見据える。そして十二枚の白い羽を漆黒の天空へと舞い散らした。

「ミサイルだ!!」

戦闘機パイロットの悲痛な叫び声が黒月機のコクピットに響き、続いて爆発音が聞こえ、ノイズへと変わる。上空を占拠していた戦闘機は一気残らず十二枚の羽に撃ち落とされ、爆発の眩い輝きに変わる。

「ば、馬鹿な…」

「隊長!!あの機体は」

黒月は理解した。この場を制していたのは黒月やデュランではなく、またミラージュの部隊でもなかった。奴は天上から全てを見下ろしていたのだ。
アリーナ十傑の一人―――――

「セレスティアルスター【天上の支配者】です!!」

言ったMTパイロットの索敵レーダーの自分のいる場所に青い点が出現する。彼は機体の視点を上部へと向け確認しようとしたが、それは叶わなかった。
鉄屑へと変貌した戦闘機が撒き散らした黒煙の雲を、一条の赤い光―――プラズマライフルが貫き、ビルを破壊し、その場に居た2,3体のMTをも光に巻き込み、蒸発させた。
MT達が上空へと視点を向けた次の瞬間、無数の流星が雲を貫き地上へと降り注ぎ、MTの占拠していた一帯を廃墟へと変える。
かろうじて生き延びたMT部隊の隊長機の前に、一機の銀色の機体が旋風を起こし、黒煙纏いながら瓦礫に落下する。

「う…ぅ…」

怖気づいて後退したMT群をACの赤いセンサーアイが捉える…銀色の機体から通信が入った。

「…レイヴンを舐めるな…」

恫喝を含んだその一言でMT群は恐慌状態に陥り、我先にと撤退していく…

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――AC専用ガレージ――

周囲は薄暗はずだが、いくつものライトがそのフロアの全体を照らし、そのフロアにある物に濃い影を落とす。そして照明に照らされ、一つの巨大な物体が姿を露にしている。
十人ほどの作業班がその山のような物体に取りつき、なにやら作業をしている。
布に包まれたその物体は各所に紐が撒き付いており、それによって布を固定していた。
その光景を下から見上げる二つの影…

「……これが君の選んだ機体なんだね」

「ああ」

答えた少年はその物体を見上げる。

「そして罪人の証でもある…」

少年の足元に大きなロープが落ちてくる。それに続いて物体を覆い隠していた布がめくれあがり、漆黒の巨人が姿を現した――――Armord Coreと呼ばれる戦闘兵器である。
その漆黒の機体は中量2足に光と呼ばれるコア、右腕には220ライフルを、そして左手には70スナイパーライフルを握り、肩部にはレーダーと追加弾装を装備していた。

「君――黒月が罪人になってまで求める物はなんだ?」

黒月と呼ばれる少年は質問してきた少年に振り返り、返答を告げた。

「いつか…その時がきたらクレス―――お前には話そう」

答え、黒月は『遥か遠くへ』と名付けた機体を見上げた…

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ピピピピピピピ…

高鳴る電子音、薄暗く、狭い空間に次々と光が溢れだし、モニターの淵に様々な計器が表示される。
少年は機械的にモニター付近に配置されている計器のスイッチをONに切りかえる。

「――――以上が作戦内容です」

「了解」

黒い機体が重い唸りと共に起動し、ガレージの中のカタパルトに移動する。

「レイヴン、幸運を祈ります」

レイヴンには祈願する神などいない、頼るのは自分の腕と銃器だけ――――

「――――黒月・レインベル、ファラウェイ出撃する」

一匹の漆黒の鴉が楽光を浴びながら春の空へと翼を広げた。


戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送