半球状のだだっ広い、ドームのような広い空間に一人の漆黒の男が重い音を立てながら入ってくる。いや、正確にはそれは人ではなかった、人の形と書く―――ACだった。その人形は入り口から数歩前進し、その場所で待機する。 猛々しい歓声がドームの中に響く、続いて全身漆黒のACが入ってきた所とは対極の位置から、重足にバズーカと六連ミサイル、EXミサを装備した黄色を基調としたカラーリングのACが現れ、重い音と共にドームの中に入って来る。 観客の歓声が一層大きくなった。 ―――――――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】序章―――――――――― 【アリーナ〜A desperate struggle〜】 ――第4アリーナ対戦場―― 『さ〜、今日もやってきました!アリーナの時間です!!今日、先陣切って戦うのは最近人気、実力共にお株急騰中の機体名【グレイシャルハンマー】ことE−6レイヴン、ケイン・R・ハンマァァァ!!!』 解説者が熱の篭った声でアリーナのテンションを上げていく。 それに答えて、黄色のカラーリングの重足ACが右腕に持ったバズーカを頭上に掲げる 観客から歓声が湧き上がる、解説者の説明の通り、そのレイヴンにはかなりの人気があるようだ。 『そして、対する挑戦者は最近レイヴンになった新人レイヴン、ここまで勝ちあがった実力は本物か!?機体名【ファラウェイ】黒月・レインベル!!!』 ライフルとスナイパーで武装した漆黒のACがブースターをほんの少し吹かす。 アリーナの喧騒は最高潮に達した、ドーム全体が虚空に向かい、大合唱を放つ。 それを高揚した気分で聞いていた――黒月のコクピットに通信が入る。 「ふん、どこの雑魚かは知らんが、開始と共に降参することをお勧めするぞ。その機体が俺のバズーカで粉々にされる前にな」 対して黒月と呼ばれるパイロットも通信を返す。 「ああ、あんたの実力を認めたらそうするよ」 「フッ、安い挑発には乗らんか」 相手の売って来た喧嘩に、買いもせず、拒否もしないと言った返答をする。安い挑発には乗らない。それがファラウェイと呼ばれる機体に乗ってる黒月の主義の一つ。 『今日は特別ゲストとして今最もAランクレイヴンに近いと言われているB−6レイヴン、パイロットのセレスさんに来てもらいましたぁ!!』 (な、アイツが…どういうつもりなんだ) 黒月は少なからず動揺した。彼――セレスはレイヴン試験の最終ミッションの試験官であり、その折に凄まじいほどの実力を見せ付けられたのだ。 観客から一層声援が上がる。もともとBランクなどのレイヴンがこういう低ランクの試合の解説には来ないはずなのだが… ――第4アリーナ観客席―― 観客の喧騒飛び交う中、一人の少年が静かにポップコーンとコーラを飲み食いしている。 「おい、聞いたのか?十傑のセレスが来てるらしいぞ?」 隣の男が話しかける、もちろん少年はその男に面識など無い。 「ええ、そうですね」 などと、あまり意に介してないようだ。適当に相槌を送る。 「今日もさっさと終わらせてよね、黒月」 言って、少年は会場のモニターに視線を移す。観客席のスピーカーから大音量の解説者の声が聞こえてくる。 『さて、セレスさん、この試合どちらに分があると思いますか?重装甲ACのグレイシャルハンマーにファラウェイのあの武装は少し非力なような気もしますが?』 『ええ、確かに非力ですね。新人の黒月などお株急騰中のケイン君がけちょんけちょんにしてくれるでしょう』 普段、この十傑は抑揚に乏しい声をしているくせに、このコメントの時は妙に「けちょんけちょん」の部分を強調して言う。もちろん、このコメントもパイロットに筒抜けである。観客席の少年が吹き出す。 「黒月はセレスさんにかなり嫌われたようだねえ」 『は、はあ、随分ケイン選手を気に入ってるようですね、では、そんな感じに黒月選手、ボコボコにされちゃってください!!!それでは、試合開始!!!』 その通信が黒月機の通信機から聞こえてくる。モニターに『READY』と言う文字が表示され、続いて高い電子音と共に『GO』の表示に変わる。黒月はモニターも見ずに、ただ下を向いて痙攣しているように見える。恐れているのだろうか?…いや――――― 開始の合図が出たとたん、黒月はいきなりにブースターのスロットルを全開にし、OBを発動させグレイシャルハンマーに急速接近、上昇する。そして間髪いれずに二つの腕を上げ、空中に浮上して接近しながらライフルとスナイパーで猛攻撃を仕掛け、そのままホバリングしながらライフルを撃ちこむ。 ケインはその猛攻にかなり怯んだようだ。エネルギーシールドを展開し防戦一方に追いこまれて行く。 『え…え〜っと、黒月選手……キレてません?』 『キレてますね』 セレスは至極当然というふうに答える。どうやら司会者は原因の半分が自分にあることを自覚して無いらしい。 最初の猛攻に怯んだケインだったが、すぐにバズーカを構え、反撃に移る。黒月はバズーカを空中でひらりとかわす、アリーナの天上の強化ガラスにバズーカが着弾し、アリーナを震わせる。 ファラウェイがバズーカを回避した瞬間、弾幕が途切れる。ケインはブースターで後退しながらEOを展開し、牽制しながらそのまま黒月機に回りこみ、主武器をミサイルに変更する。 「ふん、初心者に良くあるミスだな、無駄な弾の連発、ENの無駄使い…雑魚はとっとと消えろ!!」 言ってグレイシャルハンマーはミサイルと追加ミサを放つ。黒月機は最初のOBによる急速接近とバズーカの回避の為にエネルギーが大きく消耗していた。仕方なく着陸するが、上部から追尾して来たミサイルが周囲に着弾する。辺りに瓦礫が舞い、ファラウェイの装甲を削る。 「くッ!!」 ミサイルの衝撃で機体が硬直する。その瞬間に背後に回りこんだグレイシャルハンマーがバズーカを構え、接近してきた。急いでOBを点火し、緊急離脱を図るも、発動前にバズーカをコクピット背後にもろにもらう。コクピットの後方が光る。 「これで終わりだ!!」 グレイシャルハンマーはミサイルを6発全てロックし、EOを展開させる。EOの強力なレーザーがOB移動中のファラウェイ目掛けて発射される。当るか、と思った瞬間、黒月機はOBのスライサーを使い回避する。 観客から歓声が起こる。 「ふぅ、ありがとな。バズーカのおかげで頭が冷えたよ」 試合中に通信が入ってくるが、ケインはそれに構わずミサイルを発射する。EXと合わせて計十発のミサイルが黒月機に接近する。 ファラウェイはOBを切り機体を旋回させ、ミサイルを正面から捉えブーストで後退する。そして――――― 瞬間、激しい光が連続して起こる。観客から悲鳴が聞こえる、この光量に目が眩んだのだろう。 「なんだと、迎撃したのか!?」 ライフルとスナイパーの2丁拳銃による速射撃、それはミサイルを一発ずつ正確に迎撃した。 ミサイルによる爆炎の中、一条の高速の黄色い光が飛んでくる。それはグレイシャルハンマーのミサイルポッドを貫き、爆破させる。爆炎の中、ファラウェイが姿を現し、両腕を構え、中距離からライフルとスナイパ―による規則的な攻撃を放ち、グレイシャルハンマーの装甲を削る。そしてそのまま大きく回りこむ。 コクピットの中の射撃用スコープに少年の無機的な瞳が反射している… ケインは反撃に転じようとするが、無数の弾幕の中に潜む牙、重足ACと言えども、ライフルとスナイパーが装甲を貫く反動によってろくに機体が動かせない。シールドを展開し、苦し紛れにバズーカを放つが、中距離でしかも高速移動をするファラウェイに当る由も無かった。装甲が恐ろしい勢いで削れ、更に熱量で融解していく。 途端に弾幕が晴れる、そして黒月機が入り口へ向かって戻っていく。 「馬鹿にしてるのか!!?まだ試合は終わってないぞ!!」 ケインは叫び、バズーカをロックしようと腕部レバーを引いた、が 「う、動かない?」 グレイシャルハンマーはバズーカを持っている腕部はおろか、脚部、頭部モニターまで作動しない。 「ACの関節部を全部スナイパーで撃ちぬいた。試合続行は不可能だな」 「馬鹿な…そんな芸当…Eランカーに出来るものか…」 少年の凍てつくような声が、ケインのコクピットに響く。 無心に弾の連射などしていなかったのだ、黒月はライフルで通常セカンドロックオンし、弾幕と反動を与え、スナイパーライフルをスコープを使い機体の各関節部を的確に狙撃していた。 (こいつに負けたレイヴンはほとんどが試合続行不可能の状態だったと聞く…格上の…奴だったのか…) Eランカーでも優秀な部類に入るケインは、黒月に負けた他のEランカーや、派手な戦闘を好む観客、無知な司会者とは違い、かろうじて彼――黒月と呼ばれるレイヴンの実力の底の深さを図ることが出来た。 『勝者、黒月・レインベル!!!』 アリーナに歓声が響く。 『いや〜、見事な逆転劇でしたね、セレスさん!って……ぁ……』 振り向いた司会者の隣には十傑のレイヴンは居なかった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――アリーナ会場前―― 時刻はもう夕刻、太陽の光が消え、空は藍色に変色してゆく。街灯の白い光に照らされながら長い黒髪の少年が人気のないコンクリートの緩やかな段差を降りてゆく。 段差を降り終え、しばらく歩道を歩いていると、少年の目の前に一人の青みの帯びた黒い髪の男が立っていた。男が口を開く。 「私なら二十秒で仕留めていた」 青色の髪の男は抑揚の無い声でぼそぼそと語る。 「………」 「フッ、だんまりか」 「あんたの好きそうな戦い方をしてやったぞ」 無表情のまま、少年は男の隣を通り過ぎる。 実は十傑などのトップクラスのレイヴンは一撃一撃を確実に急所を狙い、戦闘不能に陥らせるといった攻撃を仕掛けている。しかしながら相手もトップランカー、その戦法は熟知しており、機体を微妙に捻らせるなどしてその必殺の一撃を回避する。そうして結局トップランカー同士の戦闘は派手になる。 先ほど黒月とケインが行った戦闘は、正に“力に差のある戦い”そのものなのだ。なり立ての新人レイヴンなどは、そういう実力が分からず、力の差を見誤る。 「ロックオン技術は既に一人前だが、回避行動、間合いの取り方が甘すぎる」 少年は振り返り、その男を見るが男はこちらを向かずに話しを続ける。 「…何が言いたい」 男は振りかえり、少年を一瞥するとまた元の方向に向き直って告げた。 「お前は腕は、お前の姉――――アリア・レインベルには遠く及ばない」 少年の眉が少しつりあがる。 そう言うと、男は人込みの中へと消えていった。少年はしばらく男の消えた方向を凝視していたが、やがて歩き出した。 |
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