Vol.10

「くそッ、あの馬鹿!!」

グローバルコーテックスの管制局で、似合わない制服に身を包んだクレスは、悪態をつき、ディスプレイを殴った。こんな時には相棒の覚悟の良さが恨めしかった。周りで作業をしていた同僚が何事かとクレスに視線を向けたが、クレスは構わず、再びキーボードを叩き始める。
しばらくすると、通信機から太い男の声が聞こえてきた。

『ん、どうしたんだクレス君?俺の仕事専用の携帯末端に連絡を入れるとは』

「その依頼をしようと思ったんです。今は詳細を話している暇はありませんので、取り合えず、機体を輸送機に乗せて、アーカイブエリアまで一緒に来てください!」

通信機越しから素っ頓狂な声が返って来る。

『ぬおッ、いきなりクレス君と組んでミッションか!?しかも依頼金とか、詳細も知らせないで…あ、俺、長ね』

何故か、デュランの喋る間に“半”とか“長”とか“ようござんすか?”とドスの効いた男の声が響いてくる。

「(何やってんですか)…移動中にお話しますのでッ!黒月が危ないんです。私が今から輸送機を手配して、そっちに向かいますので。依頼金は50000C。文句無いでしょう!?」

『黒月がなんかしくじったのか?(グァ、短だったか)クレス君まで戦闘領域に輸送機で出たら、かえって危ないんじゃないか?ああ、通信切れてるし。拒否権無しってことね』

クレスは上着を掴んでGCの輸送機発着所へ駆け出した。

―――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】Vol.10―――――――――
【さよなら〜You are no where〜】

「…………とことん甘い人ですね。あの一度きりの勝てる機会を棒に振るとは」

「まだ…まだだ…」

硝煙取り巻く砂塵の中、二機のACが直立不動のまま佇んでいる。一方のACには左腕と頭部パーツが無く、そのすぐ付近の地面に切り離されたパーツが埋まっていた。それに比べもう一方の流線的な薄紅色の機体は五体満足で、頭部パーツが少々被弾しており、コアの装甲などは、さして目立った被弾は無く、ただ一部分が強い衝撃を受けたのか、装甲が抉れていた。

「カウンターの要領で、最初の攻撃をわざと受けたのは判ります。しかし、何故コアパーツでは無く“スナイパーライフル”に狙いをつけたのですか?」

薄紅色の機体の右腕には、何の武装もされていなかった。良くみると、薄紅色の機体の周囲には、焦げた金属片が散らばっており、どうやらそれは破壊されたスナイパ―ライフルの破片のようだった。
あの一瞬、ファラウェイはスナイパ―ライフルに狙いを定め、ほとんど零距離でライフル弾を放ち、武器破壊を行なった。しかし、赤薔薇はスナイパーが爆発―炎上するまでのほんの数秒間にスナイパーをパージし、右腕の損傷をかろうじて防いだ。そしてファラウェイの左腕を切り離した返す太刀で、頭部パーツを切り離したのだ。

(あとは…レーザーブレードさえ破壊すれば、赤薔薇は戦闘能力を失う)

「まさか、武器破壊をして、戦闘能力を奪って、私に勝とうなんて甘いことを考えてるのではないでしょうね?」

黒月はスパークの走る機体をなだめ、急速後退させると、赤薔薇の左腕を狙ってライフルを一斉射させる。

「無駄です…あなたの狙いなど読めています」

赤薔薇は機体を左に平行移動させ、回避行動を取る。数発被弾したが、それは機体の右腕周辺に被弾し、火器には影響が無い。反撃に右肩に装備されているミサイルを放つ。

「くっ…」

これ以上ライフルを使うわけにはいかない黒月は、OBを発動させ、ミサイルを回避する。そしてOBをカットし、ブーストでミサイルの第二波をかわそうとするが。この時、機体に異変が起こった。ブーストが切れたのだ。計器を見ると、ENゲージがレッドゾーンを超えており、ENチャージに入っていた。

「ジェネレーターエラー!?馬鹿な…奴から撹乱系ロケットを貰った覚えはない」

ミサイルは運悪くファラウェイの右腕周辺に被弾し、ライフルを破壊する。ファラウェイは隠し武器の一度しか使えない、強度の低い小型のナイフを脚部から取りだし、右手に装備する。ミサイルによる粉塵の中からゆっくりと薄紅色の機体が姿を現す。

「無様ですね」

赤薔薇は左腕を横方向に少しだけ上げ、真紅のブレードを形成した。

「その月光…色が違うと思っていたが」

真紅のブレードを薙ぎ、切っ先をファラウェイに向ける。

「御明察。この剣はただの月光ではありません。【ULB-BLOODY-SWORD】過去、大破壊以前に存在した紅き魔剣を模したロストテクノロジーの一つです。逸話の如く、切り裂くだけでは無く、ジェネレーターに異常をもたらします。一太刀入った時から、あなたの命運は尽きていたのですよ」

「御説明どうも…」

スロットルを押しこみ、機体を屈ませ、バネのように勢いをつけて赤薔薇に飛びかかり、ブレードを破壊するために突出型ブレードの予備動作に入る。もうこれが最後の攻撃手段だ。赤薔薇は横に軽くステップし、ナイフの攻撃を回避した後、ファラウェイ目掛けて突きを放つ。
紅き剣がファラウェイの視界を埋め尽くす――

「クス、最後の最後まで甘い人でしたね。さようなら。レイヴン」

斬撃。

―――――――――――――――――――――――――――

「―――そろそろ作戦領域に入る。しかし…」

真紅の機体は地上の風景を見渡す。そこには無数の鉄屑と、砂塵と、墜落船だけが存在する、非常に閑散とした風景だった。

「…探索を実行してください。もしかすると、まだ戦闘中かもしれませんので警戒を怠らずに」

クレスはそう言うが、輸送機のレーダーに熱源の反応は無い。

「了解。デュラン・アドワード――サンドガーディアン出撃する」

「ファラウェイの最終確認地点のデータを送ります。輸送機はこのまま上空にて待機してますので、確認が終了したら、この地点まで戻ってください」

取り合えず、デュランはその最終確認地点まで機体を駆る。そこには大破された墜落船の一部の残骸が残っており、まだその一部は炎上していた。本当にまだ戦闘が行なわれている可能性も否定できないので、機体は戦闘モードにしたまま、デュランは最終確認地点を拠点にし、その周辺を探索していく。周辺にはMTの物とおぼしき残骸しかなく、ACほどの巨大な機体は見つからなかった。

「クレス、どうやらファラウェイの機体は確認できないが…探索地域を広げるか?」

しかし、クレスは見てしまった。サンドガーディアンから中継して送られてくる映像の中に、良く見知ったエンブレムがあることを。

「デュラン…さん。4時方向にもう一度機体を戻してくれませんか…?」

「了解。これは…」

そこにポツンと佇んでいる漆黒のパーツ。その一部分には漆黒の鴉が描かれていた。ファラウェイの左腕と、頭部パーツだった。無言でデュランはその場所で機体を旋回させる。すると視界の隅の、少し離れた地点に黒い塊が映った。デュランは反射的にクレスへの映像回線を切る。

「……オイ…冗談だろ…?」

紛れも無く、ファラウェイだった。漆黒の機体は頭部と左腕が欠落していて、片膝をついていた。右腕は力無く、半分ほど肩から引き千切れており、手にはひしゃげたナイフが握られていた。デュランは塊の前まで機体を駆る。
コアには幾重もの鋭い線が走っており、どうやら弾速の早い火器で攻撃されたと判る。そして…コクピットにあたるコアの中心は無残にも空洞になっており、ブレードで貫かれたということが判った。

「黒月…死んだのか……?」

ファラウェイが敵のブレードに貫かれる瞬間が、デュランの頭の中で再現される。状況を見るに、ファラウェイは敵機に破壊され、黒月もろとも、運命を共にしたとしか考えられなかった。サンドガーディアンは砂塵のけぶる中、ただ、静かに佇んでいた。

―――――――――――――――――――――――――――――――

暗い、ここはどこだろう。

「レ――ン―ます―か」

「レイヴン――――」

―――――――――――――――――――――――――――――――

最初に目に入ったのは見知らぬ天井だった。続いて、照明の光が眼を焼く。うっ、とうめきを漏らし、黒月は起き上がろうとする。しかし、体は言う事を聞かず、微かに上体が動いただけだった。体の至る所に包帯が巻かれていた。点滴をされているのだろう、腕には管が刺されていた。パシュっと、どこかのドアの開く機械的な音が聞こえる。まだ視界がぼやけて良く辺りが見まわせない。記憶もなんだか良く纏まらず、自分が今まで何をしていたかが思い出せない。
そんなぼやける視界の中、金色の光が眩しかった。ああ、と黒月は心の中で嘆息を漏らす。一つだけ判ったことがある。

「やっと目覚めたか?」

姉さんが帰ってきた。


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