Vol.11

「レイヴン。聞こえていますか」

薄紅色の軽二足ACのパイロットは先ほどまで戦闘を行なっていた漆黒の機体にそう問いかける。だが、漆黒の機体のパイロットからの通信は帰ってこない。

「まあ、ミサイルを全部機体に叩き込みましたから、多少は負傷していても不思議ではないですね」

表情が伺えない淡々とした口調でそう言う。その時、通信機からパイロットのうめき声が聞こえた。

「やはり生きてましたか。さて…」

彼女は機体のコクピットを開き、外に出る。風が彼女のしなやかなプラチナブロンドの髪を撫でる。

―――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】Vol.11――――――――――
【孤独の中で煌いて】

ピッピッピ―――

無機的な医療機器の電子音は、あまり広くない部屋に独特な雰囲気の静寂を与える。
プラチナブロンドの女性は少年の傍に近寄り、辺りにあった椅子を手繰り寄せ座る。少年はまだうつろな瞳をして彼女を見ていたが、やがて焦点が合ったのか、目元に険が寄り、寝かせられていたベッドから無理矢理起き上がろうとする。

「痛ッ……」

しかし、途端に少年―黒月の全身に激痛が走り、再びベッドに倒れこんでしまう。少年は左腕がギプスで固定され、更に至る所に包帯が巻かれて、左腕には輸血用の管や、多数の薬剤が点滴されていた。

「無理動かないように、肋骨2本、鎖骨、右腕が骨折していて更に内臓も傷ついてます。切り傷なんかを数えていたらキリが無いくらいですからね」

プラチナブロンドの女性―アリア・レインベルは実の弟に向かい淡々とした口調でそう告げた。だが、黒月は体を動かす代わりに首だけを姉の方に向け、その顔を睨む。少々大人びて綺麗になった気がするが、それは間違い無く自分の姉のアリアの顔だった。

「何が目的で俺を助けた?“赤薔薇”」

数年振りに姉にかけたその音は掠れてて、自分でも良く認識できなかった。だがアリアはその音を聞き取り答える。

「威勢だけは良いようですね。死ななかった方が不思議ですが、あなたに確認したいことがあります」

アリアは実の弟に向かい苛烈な言葉を紡ぎ出す。

「あなたは言ってましたよね?私に向かって“姉”と」

その端正な顔に一切の表情を浮かべず、黒月を見つめ返すその女は、黒月の知る姉とは到底思えなかった。しかし――

「……だったらどうした」

黒月は“姉”から目線を逸らし答える。対してアリアはその顔に綺麗な真冬の微笑を浮かべる。そしてこう言ったのだ。

「そうですか。よかったですね。あなたが戦闘中にその言葉を告げていなかったら、私はあなたを確実に殺していたでしょう」

その言葉を聞いた時、黒月はこの人物が決して自分の姉ではないと言う事を遅ればせながら理解した。
心の底では記憶にある一連の出来事は全て演技だったと言う事を期待していたのだ。だが、もう彼の知っているアリア・レインベルはこの世には存在しない。改めてその事実を痛感させる別れの言葉だった。

「…泣いているんですか?」

黒月の頬には一条の光が走っていた。

「うるせえよ…喋りかけるな…」

「…昔の私には弟というものがいたようです。ですが、今はその記憶は封印されてしまったようで。今あなたが弟と言われても私には良く判りません」

「………」

「ただ、私のクライアントからは、自らアリア・レインベルの弟と告げる者は殺すな、との命令が出てましたのでその指示に従っただけです」

「…クライアント?」

「時期にここに来るでしょう。次の質問ですが…『ダンテ』この言葉に聞き覚えは?」

「…聞いたことは無い…もう質問は終わりか?」

「はい、結構です。安静にして下さいね。クライアントが来るまで死んでもらうわけには行きませんので」

再び混濁しかける意識を叱咤して、黒月は言葉を紡ぎ出す。

「…俺が戦闘を行なってから何日経った?」

「2日です」

そう言うとアリアはゆっくりとした動作で立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。

「どこへ…行く?」

アリアは歩きながらこう答える。

「あなたには関係の無いことです。…まあ、私も忙しい身でしてね。次の仕事がありますので」

奴の仕事と言うのは暗殺以外に他ならないだろう。だが、暗殺すべき対象の判断が良く判らない。赤薔薇はクライアントと言う言葉を口にしていたので、そいつに会えば、何故、姉がこのような状態になったか、多少の理由が判るだろう、と黒月は再び朦朧としてきて良く働かない頭で判断する。

「…次に合う時は…必ず止めて見せるからな……姉…さ…ん…」

その言葉を最後に黒月の意識は再び闇に落ちた。アリアはドアの前まで来て、黒月の方に向き直り、そのまま佇んでいた。
表情は照明の光加減で逆光になっており、影になって伺えなかった。しかし、アリアは何をするわけでも無く、黒月を見つめ、佇む。
その顔に走る一条の煌き。しばらくして、彼女はドアの向こう側へ去っていった。


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