Vol.14

『黒月・レインベルさんですね』

『あ、はい。そうですけど、何か用ですか?』

『貴方のお姉さんの事でお話があるのですが、少々お時間よろしいでしょうか』

『姉さん…?姉さんに何かあったんですか!?』

『大変言いにくい事ですが、貴方のお姉さんはミッションへ出撃した後、作戦中に戦死なされました。大変遺憾に思います』

『えっ…?姉さん……が?ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか!』

『落ち着いて、このディスクに貴方のお姉さんの最後の戦闘記録が残っております。これを見れば大方の経緯が納得できるでしょう』

―――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】Vol.14―――――――――――
【記憶との邂逅】

「納得できるかって…そんなこと」

黒月は誰も居ない静寂に包まれた病室で一人呟いた。その微かな呟きは、病室内を包んでいる医療機器の電子音に吸い込まれ消える。
久しぶりに、姉の死別を告げに来たGCのエージェントと接触した夢を見た。黒月はあの日のことをよく覚えている。いきなり姉は死にましたと告げられたのだ。信じられるわけがなかった。しかし、あの日から境に姉は黒月の元へ帰ってこなくなった。
そして結局、エージェントから手渡されたディスクを見て、姉の最後を見た。
思えば、それが黒月がACを見た一番最初の記憶だった。二本足の二人の巨人が手に持つ銃と剣とを駆使し、戦闘している姿だ。
姉は強かった。当時ACをまったく知らなかった黒月でも、姉が恐ろしく腕の良いパイロットと言う事が判った。
しかし、姉の敵は格が違った。正に悪魔のようだった。姉はよく戦っていた。しかし、最後の映像に残っていたのは大破した姉の青い機体だった。そこで記録は終わった。
黒月は姉の戦っていた機体を思い出そうとするが、何故かその度に頭がしびれ、思考が停止し、どうしても思い出せなかった。記録は二度と見れなかった。再生が終わると自動的に表面が燃えていたのだ。

「それにしても、これは異常だな」

全身に負った傷は、黒月自身が驚くほど驚異的に回していった。まだここに来て、三週間ほどしか経ってないが、手酷く折れた右腕以外はほぼ全治していた。通常の自然治癒では考えられない回復速度だった。自分が裏の人間と言われる強化人間にでもなったような気分だった。
いや、実際処置が施されているのかもしれない。黒月の目に見える範囲でも、あたりの設備は既存のものより遥かに高性能の物のようだ。一体、どこの企業の施設なのだろうか…
そう考えを巡らせている所だった。病室のドアのロックが開く音がしたと思うと、数人の医師、看護婦と共に、一人の初老と言うにはまだ若い中年の男が入ってきた。
医師や看護婦はこの施設で治療を受けた際に顔を覚えていたが、男はまだ見たことの無い顔だ。いつものように医師達による診察が始まり、少々の薬剤を服用させられると、男は席を外してくれと医師達に告げる。どうやら、高い地位にいる者のようだ。

「具合はどうだ?」

男はベッドのすぐ近くの椅子に腰掛け、言った。男の茶色の瞳が黒月の瞳を捉える。

「別に悪くは無いな。そろそろお前達の身元を明かさないか?そちらは俺の事を知ってるようだが、俺はそちらの事をよく知らない。はっきり言ってそんな連中に面倒を見られると気味が悪い」

黒月が言うと男は何が可笑しいのだろうか、急に笑い出した。

「失礼、確かにそうだろうな。といっても、簡単に此方の素性を明かすわけにはいかないが、自己紹介をしておこう。私はこの施設の所長のような者のエディフィルと言う。以後見知り置いてくれ」

黒月は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「黒月・レインベルだ」

にべもなくそう答えた。そっぽを向いていた黒月には判らなかっただろう。黒月がその名を語った瞬間、エディフィルと言う男がとても愛しげに黒月を見ていたことなど。

「なるほど、黒月君か。取りあえず積もる話もあるだろうが…此方の話を始める前に何か質問とかは無いか?」

「山積みにあるぞ。まず、俺の体の治癒速度が異常に速いが」

「ああ、それは我々の医術の効果による物だから全然異常でもない。体に副作用などは無いから心配しないでくれたまえ」

男は言うが、こんなひどい怪我―骨折を含め三週間でほぼ全治するなどと言う話は聞いた事が無かった。どこが異常ではないのだろうか。

「なかなか警戒心が高いようだな。まあ、レイヴンたる者そのくらいで無ければならないが。君の推理している通り、我々はオーバーテクノロジーを有している。君への治療もその副産物だよ」

「ふん、随分と物騒な物を抱え込んでるな」

一体どこの企業かと黒月が思考を廻らせた時――

「君が本当に聞きたいのはそんなことではあるまい。君の姉について少し話をしよう」

「お前…俺の思考を読んだのか?」

エディフィルという男は口元を歪めただけで、その問いには答えなかった。

「君の姉アリア・レインベルは、彼女も言ったと思うが、もはや彼女はアリア・レインベルではない。完全に別の人物だ」

黒月はただ黙って男の言葉を聞き入る。

「と言うのも、彼女は君も知ってるとおりあるミッションに出撃した時、敵ACに敗北し、生命を失った。…だが真実は少々違った」

「真実…?」

「彼女はまだ生きていた。体の組織のほとんどが破壊されたのにもかかわらず。我々は彼女を助け出し、その命を何とか繋ぎとめた。ある方法を使って…」

「まさか…お前達が姉さんを強化人間に!?」

ほとんど驚愕に近い声を上げ、黒月は男を見る。男は頷いた。

「そう…それしか運命を変えて彼女を助ける方法は無かった…それが我々の義務であり、彼女に出来た唯一の事だった」

「貴様達が姉を強化人間にし、記憶を奪い、優しい姉の人格までも奪ったと言うのか!!」

珍しく黒月が怒鳴り声を上げる。確かにこれだけの技術を持ち合わせている施設ならば強化人間の実験も行われていても不思議ではない。
男はそんな黒月の激昂振りを淡々とした表情で見返す。

「優しい…か。君は少し勘違いをしている。アリアは記憶をなくした今でも、誰よりも優しい」

「なんだと…」

「君は知らないだろう。彼女が血反吐を吐きながら人を殺していたことを…それも、全ては彼女の優しさ故、ある目的のためだった」

男は椅子を離れ、ドアへと歩んでゆく。

「歩けるならついてきたまえ。場所を変えて話そう。多分、今がその時なのだろう…」


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