Vol.4

――酒場【夢瑠璃】――

カランカラン
時刻は昼をやっと過ぎた頃、店内に人気はないがそれでも酒場【夢瑠璃】は営業時間であり、稀にこういう中途半端な時間に客が来ることもある。

「いらっしゃい!___って、あんたか」

「や、マスター。儲かってるかい?」

マスターと呼ばれた中年の男は店に入ってきた銀髪の男に笑いながら返答する。

―――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】Vol.4――――――――――――

【魔降臨連鎖概説】

「まあ、ぼちぼちってとこかな。そいえば最近あんたの噂が広まってるみたいだぞ?」

「へぇ…まあ、派手に動いたからなぁ」

言ってデュランはカウンターに腰掛ける。そこへマスターが彼に今朝の朝刊と思われる新聞をよこした。

「お前さん最近新聞見る暇なんてなかったろ?」

「はは、確かに」

朝刊の一面の見出しはやはり企業について書かれていたが、2、3枚めくるとそこにはバズーカを構えた赤を基調としたデュランの愛機【サンドガーディアン】が見出し一杯に描かれていた。

・戦場を駆ける一陣の風、期待の新人現る
『先日夜半―クレストの機密施設にてミラージュによる襲撃が行なわれた。第一派は施設の警備部隊により撃退したが、その後戦線は硬直、増援が来るまでに両社はレイヴンを投入し争乱の早期終結を図った。クレストの雇ったレイヴン――【サンドガーディアン】は見事ミラージュの襲撃部隊と、ミラージュ側のレイヴン2体を撃退し、施設防衛のミッションを果たした。かのレイヴンは最近……
そこまで読んでデュランは新聞から目を離す。

「まあ、あの程度なら誰にでも出来ただろうさ。マスター、ビール一本」

デュランはとぼけた口調で言う。マスターは彼に背を向け、棚からビールを一本取り出す。

「AC二機相手は誰にも出来ることかねぇ…ま、あんたのことに俺は口出ししないし。それよりもう少しページをめくってみな」

言われた通りにデュランはページを数枚捲る。するとそこには彼のよく知っている機体が描かれていた。漆黒のカラーリングで中量2脚に2丁拳銃というシンプルな構成の機体

「黒月…か。まさかもうDランクまで上がってるとはな」

「あんたも、うかうかしてるとアイツに追いぬかれちまうぜ」

マスターはカラカラと笑い、デュランのグラスにビールを注ぐ。

・アリーナに鬼才再び現る
『先月、グローバルコーテックスにあらたに登録されたレイヴン――黒月・レインベル。彼はレイヴンになってからミッションをまったく受けず、アリーナのみ出場してEランカーレイヴンとの戦闘を行なっていたが、今回グローバルコーテックスが現在の彼の実力を考慮し、E−3にして異例のDランクアップが行なわれた。原因は彼がこれまで一敗もせずEランカーを蹴散らしたこともあるが、彼が、かのアリーナの鬼才アリア・レインベルの弟であることも起因していると思われ…

「アリア…レインベルって?」

デュランが訝しげにマスターに問い合わせる。

「知らないのか?有名だぞ。あのアリア・レインベルは…まあ、そのことはあんたの知り合いに聞いたほうが早そうだな」

「知り合い?…そんなのどこに…」

そう言いながらデュランは背後を振り返る。普段渋面を作ることを知らない彼の表情が驚愕に変わる。彼の背後には何の気配も感じられなかった。しかし、実際には彼の後ろには一人の男が立っていたのだ。そしてその感覚にデュランは覚えがあった。

「アリア・レインベル。アリーナの古株においてその名を知らない者はいない」

男は抑揚のない声で淡々と語る。

「セレスか…意外だな。こんな時間、こんな所であんたに会うとは…いつ来たんだ?話しかけてくれたって良いじゃねえか」

「お前が来る前から居た。その台詞そのままお前に返すぞ。それにここでお前に会うのはこれが初めてではない」

言ってセレスもカウンターに腰掛ける。その台詞を聞いてデュランは肩の力が抜けた。

「……あっそ、で、そのアリア・レインベルとやらはどう言うやつなんだ?俺はMT乗りだったんでアリーナのことはさっぱりでね」

軽く聞いたつもりだったが、十傑の返答はデュランを心底凍りつかせるに十分な物だった。

「4年ほど前のことだ…その時俺はレイヴンになりたてだったが、その時、アリーナでは一人のレイヴンの噂で持ちきりだった――アリア・レインベル…レイヴン登録から僅か半年でアリーナ十傑へ昇格、その後、グローバルコーテックスによる特別なイベントによりB−7にしてその時の王者と戦闘をしたと言う記録がある…」

セレスは少し目元を細め、カウンターを向いたまま返答をする。その場が沈黙につつまれる…

「馬鹿な…」

デュランはかろうじてその言葉を吐き出した。マスターはセレスの為にグラスにステアしたジン・バックを注ぐ。セレスはグラスを受け取り、口をつける。

「異常…なんて言葉も生ぬるい、昔だったらイレギュラーなどと呼ばれていたかもしれんが…」

「だが、そんなに異常なレイヴンが存在しているとなれば少なくとも俺達MTパイロットにも…」

言ってデュランは悟った。セレスはそんなデュランを横目で一瞥したあと、その疑問に答える。

「御明察。奴の栄華はあまりにも儚いものだった。王者を打ち倒した奴はあるミッションへと赴き、そしてそれ以来忽然と姿を消した…」

あまりにも早く栄華を極めたそのレイヴンは世界的に影響力を持つ前に姿を消した…

「…消された…のか?イレギュラーとして?」

「不明だ。だがそれ以来、もう一人の悪魔が姿を現した」

デュランはその『悪魔』とやらに心当たりが無く、セレスの次の言葉を待つ。しかしセレスの返答はデュランにも心当たりがあり、さらに彼のアイデンティティーを構成してる物に関わる返答でもあった。

「…お前も知っているだろう…軽量2足にスナイパーライフル…6連ミサイルに真紅のブレードを装備した機体…」

「まさか…お前…あの機体を知ってるのか…?」

十傑は目を閉じ、こう告げた。

「神出鬼没で戦場に血の薔薇を撒き散らし、無差別にACを暗殺していく凄腕のレイヴン…戦場から生き残った人々はその機体を畏怖を込めてこう呼ぶ。

―――『Precious Rose』――――【赤薔薇】

最強にして最凶の『悪魔』降臨の瞬間だ」


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