Vol.6

『へへ、姉さん!見てよ、この食料俺とクレスで取って来た』

『あぁ!黒月ッ!!またどっかの施設で『盗って』来たんでしょ!?』

『俺だって13だよ。このくらいできるさ!十分な警戒してなかったあいつ等が悪いんだからねー』

『もうっ!この子は…いつまでたってもやることガキなんだから。お金なら私が稼いできてるでしょ?もうこんなことしないの。クレス君にも言っておいてね』

『聞いてねェ…いてッ!殴るなよ』

………………
……………………………

『ただいま。ふぁ〜疲れたぁ…黒月ィご飯まだぁ?』

『…おかえり…なあ、姉さん…』

『ん、どした黒月?』

『…姉さんは…どうやってこんな高額な金を稼いでくるんだ…?』

『…んー、それは…企業に知り合いがいてね。その人から仕事紹介してもらってるのよ』

『…嘘なんだろ?』

『…………』

『レイヴン…やってるんだよね…?』

『…ばれてたか…』

『お願いだよ。人殺しなんて職業やめてくれ!!』

『黒月……ゴメン……それは出来ないんだ…』

『姉さんッ!!』

『あなたにも…いずれ判るとき…来るから…』

―――――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】Vol.6―――――――――――
【懐かしい歌〜Singin` in the rain〜】

闇を介して対峙する二つの影…二人は互いに無口で音も、人も、空気さえも停滞する。
その静寂を一陣の春風が闇を薙ぎ、微かな音を立てる…黒月は大型の銃を構えたまま、微動もせずに、目の前の男を見据える。男が口を開く。

「…失敬、アリア弟だったか。……それにしてもよく似てる…」

確かに銃を構えて彼を見据えるその迷い無き瞳の輝きは、彼女――アリア・レインベルと酷似していた。しかしアリアは黄味の強い金色の髪をしており、目の前の少年は、鋼を磨いたような漆黒の髪をしていた。そういえば、アリアと初めて出会った時も、自分は彼女に銃を向けられていたな。と思いにふけ、目の前の少年にアリア・レインベルの幻影を重ねる。

「…それで、君の素性は判ったが、目的は何だい?」

ロアは黒月という少年に言う。少年は突き付けた銃をおろし、目を閉じ返答をする。

「姉の最後に残した戦闘記録を拝見しました」

ロアはその言葉に僅かながら動揺する。その動揺を少年は見逃さなかった。

「やはり…最後のミッションに同行していた夜色の軽二脚ACはあなたの機体【ナイトメア】ですね。グローバルコーテックスの記録に残ってました」

「…………!」

普通、グローバルコーテックスにあるような情報は一介のレイヴンに公開される事は無い。その情報を手に入れるのは間違いなく違法に当り、しかも並みのレイヴンの技術では情報の閲覧すら出来ないほど堅いプロテクトによって守られてる。
しかし、黒月の背後には、グローバルコーテックスに所属しているクレスと言う情報戦に長けた人物がついてる。黒月は彼に姉の消えた3年前のミッション記録を極秘に調べてもらい、姉の駆るAC【アグリアス】の出撃したミッションを探し当て、僚機として出撃したロアの【ナイトメア】存在を知った。

「姉はそれ以来帰って来ませんでしたが、あなたはそのミッション後もレイヴン家業を続けてます」

「…………」

黒月は目を見開き、ロアを見つめる。彼女――アリアには無かった切実な表情で黒月は語る。

「単刀直入に聞きます。姉の消息を教えてください」

再びこの場に沈黙が降りる。ロアが口を開く。

「そこまで知ってるんだ。大体の予想はついてるんだろ?」

「…信じられません」

黒月の返答は、ロアの質問を肯定したものだった。気まずそうにロアは続ける。

「だが、それが一部の者のみが知ってる真実だ…それ以上も以下もない」

「…俺はあなたの口から真実を聞くまでは信じません。あの姉が…あの優しい姉が『赤薔薇』と同一人物なんてッ!!」

三度目の沈黙は重く、月光は雲に隠れ朧月夜と化す。ロアはこれ以上言うことは無いとばかりに黒月の横を通り過ぎる。そしてすれ違いざまにこう囁いた。

「アリアは死んだ。俺がこの目で最後を看取った」

「!!」

あまりにも衝撃が深すぎて黒月は悲しみを超え、ただ呆然としていた。目線が無意識にロアへと向かう。ロアは振りかえり、こう告げた。

「少し言い方が悪かったな…。アリア・レインベルは死んだ。だが存在し続けている」

黒月の瞳に輝きが戻り、表情に困惑の色が出る。

「どういう…意味ですか?」

再び彼は黒月に背を向け、歩み出す。

「自分で確かめるんだ……彼女を守れなかった俺には何も言うことはない」

その後ろ姿は、守るべき国を失った騎士(ナイト)のように、深い悲愴が漂い、闇に飲みこまれ―消えた。

「やはり…赤薔薇は…アリア姉さんなのか…」

黒月は星空を見上げる。その表情は前髪に隠れ、見えない。ただ笑っていないことは確かだった。彼は手のひらを顔の左半分に当てる。

「…不思議だな…」

手を当ててない右の頬に一条の煌きが伝う。泣かないと誓ったのに…姉が帰るその時まで。

ポツ   ポツ

彼の頬に雨が降り注ぐ。何時の間にか星空には灰色の雲が覆い尽くしていた。雨は次第に強くなり、銃を握り締め、空を見上げたままの黒月を濡らす。雨は黒月の涙を隠すように降り注ぎ続ける…

ザァァァァ…………


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