Vol.8

―――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】Vol.8――――――――――
【剣、迷い無く〜sword dance〜】

「隊長ッ!!くッ…動ける者は迎撃体制を取れ!!敵は単機、長射程距離のFCSを装備している!」

その時、MTの駐屯している場所から少し離れた、森林の有るエリアから上空を朝日の煌きを反射しながら、一機の漆黒のACがものすごい速さで滑空してきた。
最速を誇るコアパーツ――RAY――
ACは両腕を上げ、構えたライフルとスナイパーを放ちながら、MT部隊の上空を駆ける。

「ぐぅ…、このACは…ファラウェイか!?何故ミッションに!!」

ACから放たれる弾幕は数機の高性能MTを飲みこみ、上空を抜ける。起動し始めたMT大隊が後方へ旋回すると、漆黒のACはブースターを吹かし、ゆっくりと砂漠にある墜落船の近くの地表へ降り立つ。そのACは右手に220ライフルを、左手に70スナイパーを、そして肩には大型グレネードと探索型レーダーを装備していた。漆黒のACがゆっくりと後方へ振りかえる。その場に立ちこめる濃厚な殺気、静止しながらこれほどの気配を放てるACはレイヴンの中でも十傑に匹敵するほどの実力者だろう。

「撃てぇぇッ!!!」

今やこの場の指揮官となった副隊長はその気配にのみ込まれず、全MTに攻撃命令を出す。おびただしい数のミサイルやエネルギーライフルの弾幕が敵MTに集中砲火された。

「大部隊だな…。クレス状況報告を頼む」

黒月は敵の放つ集中放火に怯みもせず、無駄な動作を一切排除した機体捌きで弾幕を回避する。機体には一撃も被弾してない。上空からミサイルが襲うが、機体を浮上させ、ライフルをかわしながらミサイルをも回避する。

「上級MT25…30。機種識別…ミラージュのMT?いや…これはクレスト?」

「どう言うことだ?まあいい。全て殲滅する」

黒月は機体を後退させ、再び地表へと着地させる。敵との距離がかなり開いたので敵MTのロックオンが解除される。ファラウェイはその場で肩膝をつき、強襲用に装備してきたグレネードキャノンとスナイパーライフルを展開させる。

ドゴォォォ

一瞬後、集結して戦闘していた4機のMTがグレネード弾に飲み込まれ、爆散する。そして散開の指示を出した隊長機と思われるMTの胸部装甲を2発のスナイパー弾が貫く。

「まて黒月、状況が把握できてないッ!無闇に戦闘を行なうな!」

「もう前金は受け取ってる。それにこの戦力だ、手加減はできない」

戦況は黒月に有利、各隊長を狙って破壊しているので敵は統制した攻撃ができてない。グレネード発射体勢のままのファラウェイを5、6発のミサイルが襲うが、黒月はすぐさま発射体勢を解除し、回避は間に合わないものの、ライフルとスナイパーでそれを撃ち落す。既に射撃はトップランカークラス、コアにミサイル迎撃機は付与されてないものの、ミサイルは全て掃討される。
ハッチの開く音が聞こえ、ファラウェイは上空へと浮上しながらMT部隊に接近する。ライフルが火を吹き、一機、また一機と敵を殲滅していく。敵機の反撃のエネルギーライフルがファラウェイを襲うが、火力も低く、大した損傷にはならなかった。続いてミサイルが飛来するが、黒月はOBをカットし、機体を大きく旋回させ、ミサイルの射線を上手い具合に墜落船へと引き込み、無効化する。

「足場が無ければ…作るまで!」

機体の視線を下方向へ向け、下にある墜落船の腹の部分にライフルとスナイパを一斉射する。墜落船の装甲が削れ、広いとは言えないがタンク型AC一機分の荒い足場ができる。そこへ残ったENを使い、機体を軟着陸させる。そこへクレスからの通信が入る。

「4時方向に高速接近する機体、戦闘機、数10!」

「別働隊か。ちょうど良い、この高度だ」

下部にいるMTが絶え間無く墜落船に攻撃をしかけ、足場を揺らすがファラウェイに被弾はしない。ファラウェイは接近してくると思われる方向へ機体を旋回させ、再びグレネードの発射体勢に入る。暁の空が眩しい。ロックオンはされてないが、構わず黒月はグレネードを発射する。機体が反動で後退するが背後に墜落船の腹があるので落ちることは無かった。2秒後、暁の光よりも眩いグレネード着弾の爆炎が確認される。
機数を半分以下に減らし、それでも戦闘機は味方を撃った敵ACに、一太刀入れんとばかりに接近しながらミサイルを放つ。黒月は機体を天空へと駆り、空中でグレネードをパージする。下方向からエネルギーライフルがファラウェイ目掛けて撃たれるが、それは今や最高速度で旋回移動するファラウェイの横上空を通りすぎ、まるで雨が地上から天空に降っているように暁の空に吸いこまれ――消えた。

戦闘機の放つミサイルは無意味に白い煙を吐く、その間にも漆黒のACは戦闘機へライフルとスナイパ―による二重奏の旋律の攻撃を仕掛け、殲滅する。既に戦闘機は一機のみになっていた。ファラウェイは戦闘機との衝突を避けるためブーストを切り、地表へ落下する。戦闘機はそんなファラウェイの上部を通りすぎようと離脱を図る――が
落下していく漆黒のACは頭部視点を下部に向けたまま、左腕を頭上に掲げ、手に持った銃の引き金を引く。

タァァン――

上空の戦闘機が一条の黄色の光に貫かれ、爆散する。
自由落下の速度で地表に降り立つ漆黒の機体を、戦闘機の破片の火の粉がちらちらと燃えながら、あたかも祝福するかのように輝き、そして燃え尽きた。

「これが今の黒月…」

その光景を終始見ていた彼のオペレーターのクレスは、呆然としながらを漏らす。十傑もかくやと思わせる――
――この立ち回り、当に鬼人の如く――
そしてこうも思う。今回の黒月の戦い方には容赦、いや、余裕がない、と。黒月はまだレイヴンになって日が浅い、だから『人を殺す』ことを忌避している。前のミッションではその思いが強く、敵といえども狙撃で戦闘能力を奪うなど、レイヴンとして未完成な行為を取っていた。狙撃する余裕があったのだ。今回も、敵の数が多いとはいえ、いつもの黒月ならばスナイパーなどをフル活用し、できるだけ死傷者を減らしていただろう。その余裕が無い。容赦の無い立ち振る舞いは正確な狙撃をしながら自身を守ることができないことを暗に示していた。確かに見る者によっては彼を高く評価するだろうが、クレスの目にはやはり余裕が無いように映る。

「黒月、この戦闘は…もう…」

既に残ったMTは戦意を失い、ライフルを放ちながら後退していく。ライフルがファラウェイの足元付近に着弾し、土煙をあげる。ファラウェイは微動だにせず、ただ、ただ佇んでいた。黒月からの応答は無い。静寂が辺りを包む。

「クレス…俺はこの戦闘で何人殺した…?」

「えっ?…あ…」

クレスは思いがけない黒月のその言葉に絶句する。しかし、前に黒月がクレスに語ったことを思い出し、その言葉を黒月に返す。

「黒月は“目的”の為にレイヴンをやってるんだろ、その為に罪人になる覚悟を決めた。違ったか?」

「もし、その目的自体が意味を失ったとしたら、俺はどうすればいい?」

黒月がどう言った経緯でその考えに行き着いたかは判らない。だが、クレスはその言葉に軽い苛立ちを覚える。

「黒月、お前はそんなに“弱い人間”だったか?僕は黒月があの時――3年前、何があったかは知らないが、それ以来レイヴンになるために日々努力を積んできたことを知ってる」

「…………」

「特訓の間に君が悩み、傷つき、身を削り、心を削り、後悔し、諦め、そして黄泉帰り、レイヴンになったことを僕は知ってる。先日の夜の出来事は君のその努力を全て否定するほどの物だったのか?」

「…そうかも知れない」

「だったら、もう君はレイヴンを辞めるべきだ。…だけどレイヴンを続けていることを見るに、まだやることがあるんだろ?だったらこれはただの愚痴を言ってるに過ぎない。君の弱さだ」

クレスは断定的にそう告げた。黒月はコクピットの中で、モニターを殴った、怒りが彼を支配する。

「迷うことはいい、それは糧となるから。だけど、歩みを止めてはいけないんだよ。人は。目的があるなら尚更、僕は目的を諦めて目をそむけるような奴と“親友”になった覚えはない」

「………クッ!!」

黒月の顔が紅潮する。堪えられぬ怒りが彼にジレンマを呼び起こす。もちろんクレスに対しての怒りではない、黒月の、自分自身に対する憤りの為だ。しばし沈黙が距離を越えた二人を包む。やがて黒月はポツリと言う。

「…俺は…馬鹿だな」

その声には自分に対する嘲笑の色は見えない。立ち直った声だ。

「今に始まったことじゃないだろ」

クレスは微笑しながら答える。クスクスと二人の少年が笑う声がコクピットに響く。

「ミッションは終了だ。クレス、キサラギに連絡を頼む」

「了解」

クレスがそう言った時だった。一条の黄色の光がファラウェイの装甲を貫いた―――


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