Vol.8

――――――――――【邂逅〜Time say good-by〜】Vol.9―――――――――
【暁の中で君と出会う〜mutability〜】

「敵!!?黒月ッ!」

「大丈夫だ、機体に損傷は無い…レーダーをもっていかれたが…」

黄色い光はファラウェイのコクピットを正確に狙っており、黒月は、ほとんど条件反射で、その一撃を回避した。しかし、長距離狙撃の一撃は運悪く、ファラウェイのレーダー部分に被弾し、レーダーは使用不能になる。黒月は、すかさずその場を離れるが、3発のスナイパー弾が放たれ、内2発を被弾してしまう。

「く…弾道が読めない、クレス!敵MTの中に、スナイパーライフルを装備した機体はあったか!?」

「いや、確認した限りでは、スナイパーライフルを装備した機体は無い。それにこの速射速度…速射型スナイパーライフルだ。MT用にはまだ開発されてないはずだ」

「チッ、ACか!!」

黒月は、機体を左右に振りながら後退する。そこへ4発のミサイルがファラウェイを襲う。発射方向を予測してその方向を見るが、そこには何の影も無い。しかなたくライフルで打ち落とそうとした瞬間、機体の右側部からスナイパー弾が着弾する。機体が硬直し、ミサイルが装甲に被弾する。

「グァァ!…馬鹿な!この一瞬の間に側部へと回ったというのか!?」

言って、黒月は機体を平行移動し旋回させ、まだミサイルの粉塵が収まらぬその場所へ両腕の火器を一斉放火させる。しかし、ライフルやスナイパー弾が粉塵に吸いこまれると同時に、粉塵の上部方向からお返しにスナイパー弾が飛んでくる。数発被弾しながらも、ファラウェイはOBを起動させ、その場を離脱する。一瞬後、敵ACの物と思われるOBの呼吸音が響いた。

「なんてライフル捌きと、勘の良さだ…黒月の回避行動がまるで通用しない…」

OBを起動させながら、黒月は機体を左右に振る。それでも、敵ACのロックオンはなかなか外れず、無数の弾幕がファラウェイをかすめる。中量2足の中でも、最軽量の部類に入るファラウェイが、OBを発動しているのだが、敵ACのOB機動力もファラウェイのそれに劣っていない。OBは後ろ向きに発動できないので、今は敵機を確認できないが、きっと、軽量二足並の高機動型ACだろう。
ファラウェイはある地点まで来るとOBのスライサーを使い、機体を急激な平行移動をし、移動する先にある墜落船の影に機体潜りこませる。そこまできて、ようやく敵ACのロックオンが外れた。

「…ハァ…ハァ…クレス、敵機補足はできたか?」

「悪い、ジャミング波が出現していて、ファラウェイの光学モニターから映し出される映像しか、こちらからは確認できない。恐らくフロートか、軽量2足だと思うが…」

「フロートではないみたいだな。空中での機動力が良すぎる。軽二足だとしたら…」

「ミッション目的は達成している。今すぐ輸送機の手配をさせるから、それまで持ちこたえてくれ!」

無音の時間が満ちる…その無音は来るべき崩壊までの“溜め”のような気がしてならなかった。いや、実際そうなのだろう。あらゆる方向…時折、右、左上、真後ろと、鳥肌の立つような殺気が、コクピットを介してひしひしと伝わってき、背中に、じっとりと汗が滲む…敵は瞬天殺を狙っているのだ。

「無理だ。振り切れる自信が無い。輸送機と共に撃ち落されるのがオチだろう」

「だからって、撃退することこそ無茶だ黒月!その機体では戦闘能力に限界がある!」

そうなのだ。ファラウェイにはブレードやEOなどの長期戦や白兵戦に対応できる武装が何一つ無いのだ。いつもなら弾切れに備えて追加弾装などを装備しているのだが、このミッションでは奇襲のために火力を優先させてグレネードを積んできた。この状況では、とてもグレネードを取りに戻る余裕は無い。
ライフルも、スナイパーも、既に弾数は半分以下に減っている。軽2足といえども、ACの装甲を貫く物としては心もとない。更に敵は強敵と来ている。

「クレス…俺に任せておけ。必ず生きて戻るから…通信を切るぞ――」

「黒月ッ!?ま…まて――」

それを最後に、黒月はクレスとの回線を切った。気がついてはいたのだ。
何故、この好機なのに敵MTは取って返して、反撃に転じないのか。何故、殲滅する敵部隊の中に、クレストとミラージュの部隊が混じっていたのか。キサラギらしからぬ行動である。黒月はクレスの回線を除く残り全ての回線を開く。

「赤薔薇……」

ついに黒月はその名を口にした。その瞬間、左方向に砂塵が上がる。ミサイルが地面に被弾したのだ。しかし、これはフェイントだと言う事を黒月は読んでいた。砂塵の上がる方向に背を向け、機体を砂塵の方へと後退させる。一瞬後、右方向から赤い光が、墜落船の厚い装甲を洋紙皮のように切り裂きながら、一瞬前までファラウェイが在った空間を断った。ファラウェイは、ライフルとスナイパー弾を、剣撃を仕掛けて隙のできたその機体に撃ち込む。墜落船が爆発し、辺りを炎の海へと化す。

その爆炎の中から、二条の青いブースターの残滓が、互いに螺旋運動を繰り返し、空中へと飛び出した。空に銃声が響く。二機のACは空中戦をしかけ、一方はライフルとスナイパーによる二重奏を、もう一方は、絶え間無く、連続してスナイパーを放った後、ミサイル六発を一瞬にロックオンし、敵機目掛けて放つ。
ロックオン、回避と共に困難な空中戦で、二機はそれを正確にこなし、結局、どちらも一発も被弾せずに再び炎の中に舞い降りる。
二機は互いに距離を保ち、相手の出方を待つ…そして、敵ACパイロットからの通信が入ってきた。

「先ほどの一撃を詠み切った事といい、空中での戦闘といい、なかなかやりますね。レイヴン」

細身の、スナイパーライフルと六連ミサイル、巨大なレーザーブレードを装備した軽量二足のACが、真紅のブレードを頭部の目の前で形成し、言う。その機体は炎と暁の光により、元は薄紅色だったであろう機体色が白銀に輝いていた。

「その姿…まさしくPrecious Rose…」

漆黒の機体は、弾の切れたスナイパーライフルをパージし、右手に握ったライフルを構える。

「フッ…その名を知っているなら、その機体が意味する物も知っているでしょう…?あなたに"死"を与えに来ました」

この声に黒月は覚えがある。三年経った今も忘れはしない。
だが、その声はあの時の優しさに満ちた響き無く、ただ、凍りつきそうなほどに綺麗で、妖艶だった。

「俺は死なない。…お前はアリア・レインベルなのか?」

軽二足のパイロット側からクスクスと上品な笑い声が聞こえてきた。

「確かに、そう呼ばれていた時も"あった"ようですね。と言っても、私は記憶が無いので事の真偽は判りませんが」

底冷えするような声で言う。

「あった…?記憶が無い…?どういうことだ?」

「さて、無駄話はこの辺でいいですか?そろそろ私も任務を遂行したいので」

「任務?誰からその任務を受けているんだ。答えろアリア・レインベル」

「その名で呼ばないでくれません?知りたいのならば、私に勝ってから聞けば良いでしょう。まぁ…あなた程度の腕では、私にすら勝てませんが」

紅い機体からハッチの開く音が聞こえる…眼に映るは血を求めし最強の悪魔…

「どうしても、やらなきゃいけないか…」

「まだ、そんな口をきけるのですか。ここは既に戦場ですよ――!」

白銀の機体がOBを発動し、間合いを詰める。漆黒の機体は迷わず、ライフルを構え、引き金を引いた。その一撃は赤薔薇の頭部を掠める。発砲後の一瞬の隙を突き、赤薔薇は、ブレードの届く範囲まで間合いを詰め、あらかじめ形成していた月光を振るう。ファラウェイは機体を捻り回避しようとするが、左腕が切り取られる。しかし、黒月はこんなことでは怯まず、機体を赤薔薇に体当たりさせる。コクピットに重い衝撃が伝わってくる。

「いいかげんに目を覚ませ!姉さん!!」

ファラウェイは残った右腕を構え、零距離でライフルの引き金を引いた。


戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送