Vol.1

純粋な思いとは何であろうか?
それは、誰しもある未熟な時期での意思、または初心とも呼ばれる。
人は成長するにつれて、変化する者。故に意思も、初心も変わらざるを得ない。
そして皆、初心を忘れかけた頃、美化された思い出と共に、過去を懐かしむ。
サイレントライン騒動の真っ只中。
各々の道を信じ続け、歩み続けてきた二人。
この時はまだ、B-7の十傑はまだ新米レイヴン。翼を持つ少年は、レイヴンにすらなってない。
だからこれは、少年の姉と、一人のレイヴンの物語。

―――ねえ、遠い日に恋をしたあの人も うららかなこの季節を、大切な人と感じてるかな―――?

――――――――――『懐かしき日々〜Parfect Blue〜』Vol.1――――――
【Attention Please?】

だだっ広く、そして薄暗い空間が広がっていた。
暗いその空間には幾人もの作業員が、巨大な『物体』に取り付き、ある者は物体の外装の点検をし、ある者は物体のすぐ傍でパソコン末端を使用し、物体の『中身』をチェックしていた。
物体は壁に向けて固定されており、先程から微塵も動かない。
数分に一度、動作チェックで物体の上部が赤く点滅するだけだった。
レイヤードに住む者ならば、誰しも一度は見たことがある、巨大な戦闘兵器――ACと呼ばれるモノだった。

コツ  コツ

そのACに向かって歩み寄る者がいた。赤と言うよりも、むしろ紫に近い色の髪をした長身の男だった。
ガレージの中にいる人間は、皆統一された作業服を着ていたが、彼だけは真っ黒なパイロットスーツに身を包み、腕にヘルメットを抱えていた。
作業員の一人が、やって来る彼を認識し、声をかける。

「よっロア。メンテナンス終わってるぜ。機体の装備は、いつものでいいんだな?」

話し掛けられたパイロットスーツの男――ロア・C・バンズディンは、いつもとはどこか違う、強張った顔で答えた。

「いつもので良い」

返答は素っ気無い。
作業員の彼に一目もくれず、ただ機体の方へ歩いていく。作業員が後を続く。

「それにしても、今回の挑戦者は強敵らしいな。アリア・レインベルだっけ?なんか物凄いスピードでC-2まで上がって来たとか」

ロアは反応しない。元々無口な男なのだ。

「お前もC-1まで来るのに大概早かったけどな」

作業員はロアが緊張していると思ったのか、しきりに彼に言葉をかける。
ロアはふぅと溜息をつくと、作業員の横顔を一瞥する。

「別に。これまでの奴が"雑魚"だっただけだ。挑戦者がどういう奴かは知らんが…エースパイロットは俺だけで良いんだよ」

どうやら要らぬ心配だったようだ。

ロアと作業員は機体の真下に着き、コアブロックに続いているリフトに乗る。

「叩きのめすだけさ」

敵意以外の何の色も見せず、言う。

「けっ、今のセリフBランカーまで昇格したら聞いてやるよ」

重い音を立て、リフトがコクピット前で止まる。
ロアはコクピットを開き、体を内部へと潜り込ませる。

「下がってろ。閉めるぞ」

「奴のアセンは知ってるのか?」

「カラサワに月光の中二足―――アグリアスだろ?知ってるよ」

そう言ってロアは早々とコクピットを閉じてしまった。

「……さっきパイロットの事は知らねぇって言ってたくせに」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

解説者が長々と俺と、挑戦者の説明をしている。この時間は余り好きではない。
緊張した状態が続くからだ。戦闘を始めれば緊張は消えていくのに、波が立ってない水面を、ずっと維持し続けている感じだ。
呼び出し音が鳴った。
俺の機体――ナイトメアのスロットルを、少しだけ押し込み、機体を歩行させる。
ゲートを開けると、先程までの観客の熱狂に、更に熱が加わり歓声が耳を突く。
まあ、十傑目前のレイヴン同士の戦闘だから、盛り上がるのも判る。が、あんまり五月蝿いので外部集音装置を切った。
挑戦者は先にこのドーム上のアリーナに入ってきていた。ぽっかりと空いたゲートの口の中に収まるように、青い中二足の機体が佇んでいた。

『それでは、C-1レイヴン ロア・C・バンズディンと C-2レイヴン アリア・レインベルの戦闘を行いますッ!!』

相手側から通信は入ってこない。普通は戦闘前に相手の心情を把握するために二、三言かわす。
余程腕に自信があるのか。 巨大な岩のように、微動だにしない機体を見据える。何故か笑みが浮かんだ。



ディスプレイの表示が変わった瞬間、ロアはブースターを点火し、円を描くように旋回行動をとり、ロックオンしながら間合いを詰めてゆく。

「速攻で始末してやるよ!!ッ」

まるで人が変わったかのように、ロアは声高く叫ぶと、六連ミサイルを放ち、更にOBを点火させ敵機の側部を取る為に機体を大きく旋回させる。
二方向からのミサイルとブレードの波状攻撃。軽二足の機体だけが為せる技であり、ロアの最も得意とする技だ。

(さあ、こいつを凌げるか!?)

ナイトメアがSAMURAIの二本のブレードを形成し、今正に敵の機体に切りかかろうかとする、その時だった。
今まで微塵も動かなかった青い機体が、まるで居合抜きの如く月光を抜き放ち、一振りでロアの剣撃を受け止めた。

「よく俺の太刀を受け止めたな。だが甘い!!ッ」

何故かロアは嬉々として叫ぶ。
まるで戦いそのものを楽しんでいるかのようだった。
挑戦者は剣撃とミサイルでは、剣を受け止める方を選択したのだ。元々どちらか一方しか回避できない攻撃だ。もちろんロアは二つとも回避させるようなヘマはしない。

だが一瞬後、敵は予想を上回る行動に出た。ナイトメア剣を受け止めながらも、銃を構え、ナイトメアではなく、明後日の方向に発砲したのだ。

「!!?」

耳を突く爆発音。続いて硝煙と鉄屑の風が、アリーナに吹き荒ぶ。
それがKARASAWAの一撃でミサイルを打ち落とした爆発音だと気づくのに、理解が遅れた。
青い機体の頭部センサーが、ナイトメアを捕らえ、王者の銃の銃口を突きつけられる。
反射的に機体を引き離し、機体を屈ませる。刹那、青い光が肩装甲を持っていった。

(なんッつーセンスしてやがんだ!!こいつ…半端じゃなく強いッ)

いかに十傑目前のレイヴンとはいえ、見もせずにミサイル六発を、エネルギーライフルで迎撃するとは、まさに神業としか言いようが無かった。
ブーストを使い機体を後退させ、敵機から距離をとる。中距離戦で銃器の間合いになる。
旋回し回避行動をとるが、敵のロックオン技術は恐ろしく、全弾が機体の急所を狙っていた。幾度も青い光が機体を掠め、装甲を焼く。
通常のセカンドロックではなかった。セカンドロックから更に微調整をパイロット自身が行っているとロアには判った。
接近しながらKARASAWAを放つ機体から今、猛烈な敵意が嵐のように吹きつけられた。
敵機の先程までの音無しの構えは、もうどこにも無い。
背筋が震え上がった。

ロアはナイトメアを浮上させ、近づいてくる青い機体に目掛けてミサイルを放つ。
敵は直撃コースと見るや、OBを点火し、被弾しながらもナイトメアに急速接近する。左手には青く輝く月光。

「オオオオオォォォッッ!」

左手だけブレードを形成し、此方もブーストで接近し、迎え撃つ。
二機のACは交差する。
ナイトメアが着地すると同時に、爆発音をたて、肩のミサイルポッドが炎上した。
ディスプレイにロアの凶暴な笑みが反射していた。
彼は長い間、死への緊張感と言う刺激に飢えていた。自分を殺せるくらいの桁違いの敵と戦ってみたかった。

「あんた、強いな。だが、剣では負けねぇッ!!」

交差の後、ロアはすぐさま機体を旋回させ、敵機目掛けてOBで突っ込む。それから超至近距離での戦闘になった。

ナイトメアは嵐のような狂剣を振りつづける。しかし、敵機の剣技もロアのそれに劣っておらず、月光一本で迎え撃ち、高速戦闘の激しい切り結びが展開される。
卓越された剣士の打ち合い――それは何時までも続くと思われた。
だが、次第に月光の切っ先が、ナイトメアの機体を掠めるようになってくる。

(クソッ、剣でもコイツに勝てねぇのかよ!!)

心の中で自分を毒づいた。このままではじわじわとダメージが増えてゆく。そう考えたロアは、危険な賭けに出た。
敵機から放たれる直撃コースの、その強力なブレードを剣で受けず、機体に切らせて止めたのだ。
激しい閃光とスパークを伴いながら、青い光が夜色の機体を方から、コアに向けて袈裟懸けに切り裂く。
左の肩口から胸部を切られただけで、剣撃は止まった。
剣を動かせない敵機の隙を突き、ナイトメアは狙い研ぎ澄ました右腕を突き出す。正に『肉を切らせて骨を断つ』の戦法そのものだった。
青い機体上半身を捻るのが、スローモーションのように流れた。
ナイトメアの一撃は、青い機体の左腕を貫き、切り落とした。青い機体が、銃口を構える。
月光の刃が機体に食い込んだこの体制では、次の一撃は、回避できない。

「よくやる…」

戦闘中、一言も喋らなかった敵パイロットが、そう呟いた。
二度、ディスプレイから青い閃光が溢れ出し、アリーナの戦闘終了のコールが鳴った。


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